第7回:田本久さん/タモサンドローン合同会社代表/カメラマン

楽しみながら磨いた強みが世界を広げる

自分の強みをいかし要求を超える工夫を

ーー 自己紹介をお願いします

「自称カメラマン」の田本久と申します。

ーー 自称なんですね

18歳からスチールカメラの撮影をしてきたのですが最近はドローンで撮影する方が多くなり、今は写真の仕事はお受けしておりません。10年ほど前にDJIの『Spreading Wings S800』を購入してからはテレビ番組向けの撮影の仕事をいただくようになり、そこからは動画の撮影をしております。そんなことで「自称」と言ってみました。

ーー ドローンの仕事は幅広くされておられます。本業、といえば何でしょう?

「テレビの挿画を撮るドローンのカメラマン」と3年前までは胸を張って言えたのですが、新型コロナ感染症が広がってから状況が一変しました。番組編成が一気に変わり、空撮が必要になるロケがなくなり、非常事態宣言も出て半年以上テレビ撮影の仕事が入らない状態になりました。そんな中で私の運命を変えたのがDJIの『Matrice 300 RTK』でした。これが出てきたとき、なぜか「買わなきゃいけない」と強く思ったんです。空撮の仕事が減ったときでしたが購入しました。すると「Matrice 300買ったんでしょ? だったらこういう仕事をしてもらえませんか」「こういう仕事ありますよ」と、Matrice 300 RTK が本領を発揮するインフラ点検などの仕事が持ち込まれるようになりました。今ではテレビの仕事よりもインフラ点検の仕事が増えています。その頃からスクール講師の仕事も増えてきて、JUIDAのスクールのお手伝いや、『Matrice 300 RTK』を購入された先で使い方を指南する講師などをしています。点検の仕事は風力発電所と水力発電所が多いですね。

ーー 空撮の仕事と点検の仕事で共通している部分や、違う部分とは

㈱ジェイウインド様 風力発電機点検風景

テレビ番組の空撮で一番大切なことは、画作りがきれいなこと、構図をしっかり合わせることです。一方、インフラ点検の仕事は画作りや構図よりも、しっかり見えることそのものが重要です。動画より写真で点検することが多いので、写真での露出の決め方や調整が大切になります。たとえば風力発電の点検だと、ブレードの下から写真を撮ると空が背景になるのでブレードが真っ黒に映ります。逆に、上から撮ると森や地面が背景にあるので、真っ白に映る。自動でやっていると真っ黒か真っ白にしか映らないのですが、露出を補正したり、シャッタースピードや感度を調整したりと、その場で瞬時に判断して撮影します。そこは何十年もやってきている部分ですので画面を見ただけですぐに判断ができ、切り替えができます。カメラの扱いに慣れているので、そうでない方と比べて結果的にバッテリーの消耗が少なく、早く点検が終わる。そこが私の強みなのだと思います。

ーー 自分の強みを把握することの重要性はよく耳にします

テレビ番組の撮影では、台本を見てどんな画がよいか自分でイメージするのですが、その画とディレクターのリクエストが違うことがあります。そんなときは、まずディレクターのリクエスト通りの画を撮影して、その後、こういった表現もできますよ、と提案することがあります。自分の考えを押し付けることはありません。リクエストされた画よりも、いいものが撮れそうな場合で、時間にも余裕があれば、選択肢のひとつとして撮り直しを提案するのです。撮り直した場合には、だいたいそれが採用されています。それも自分の強みなのかなと思います。

ーー 要求に応えるだけでなく、それを超えると

ドローンライティング

それが目標です。テレビ番組の撮影で、ドローンを使う場面は増えていますが、ディレクターにとっては、ドローンを使うことが初めてというケースはまだ多いです。そういうときにはディレクターは、ご自身の経験のある範囲のアングルで画をイメージし、それに基づいた指示を出すことが一般的です。一方で私はドローンの特性をいかした映像をイメージします。ディレクターにとっては、よりよい画を撮りたいので、自分が指示した画と、提案された画とを比べて、もしも提案された画のほうがよければ、そっちを採用することは多いです。リクエストを超えることで、よりよい画づくりに貢献できると思うのです。言われた構図を理解することは前提として、それだけではなく、ワンショットワンショット、さらにおもしろい画になるように努めています。

ーー 要求を超えるための工夫はあるのですか

私のスタイルは動画を撮り始めたらカメラは回しっぱなしです。たとえば、上昇する画がリクエストされているとします。上昇シーンを撮り終えてカメラを止めると、下降する画は取れません。下降シーンを見てこの画が欲しいと言われてもその映像は残っていないのであきらめるしかありません。回しっぱなしにしていれば後から、そもそものリクエスト以外の画が欲しいと言われても対応できます。また海の撮影をしていて、あの水面の反射をいかせばもっときれいな画が撮れると判断したときは、現場で構図を変えて撮ることもします。まずはリクエスト通り。もっと面白いものが撮れそうなら、時間、天気、環境など条件の範囲で、最大限自分が面白いと思うことを追求します。そういう意味では面白いと思うことそのものが大事かもしれません。そこは遊びと変わらないですね。

信用しあえればライバル業者とも提携

ーー テレビ撮影から点検の仕事へのシフトは、どのような感じだったのでしょうか

沈没船のある風景

当初は点検の仕事は、専門家ではないので撮影してもどう使われるのかがわかりませんでした。たとえば、風車などでダメな部分が映ったときに、それが傷か汚れか、自分では判断がつきません。私が撮った写真をもとにAIが判断し、ソフトが処理をして補修する箇所のレポートが作成されるのですが、その部分は未知数でした。そのうちに、その分野に深く携わっている方とお話をする中で、ようやくこの分野の可能性を実感して、それから自分なりの工夫ができるようになった感じです。一方、一度撮影したものと違う角度で撮りたいというリクエストがあれば、カメラを熟知しているのでズームで寄ったり引いたりの具合はわかります。またズームを使うのではなく、近接撮影で機体をもっと近づけて撮ることも、ドローンを長く操縦しているので対応できます。同じ画角で撮るのにもカメラの性能とドローンの操縦技術、それらを組み合わせ、最適な方法で点検にいかせるのが私の利点なのだと思います。

ーー 機体や方法の選択は?

どの機体を使ってどの距離で撮るのがいいのかなど、いろいろ葛藤はありますね。高画質のカメラで遠くから撮るのか、画質はそこそこでも近くで撮るのか。やっているうちにどの機体を使えばいいのか見分けることができるようになってきている気はします。機材は、私が持っている機体と、提携先の所有機体と、どちらも使っています。提携先も機体を導入して自分たちでもやっているので、私もそこの一員としてやっています。

ーー 連携もしているのですね

長崎港の花火

もともとは自分の会社1社で回せるだけの仕事をしていましたが、4、5年前からライバル会社と提携することになりました。365日もあるのに、なぜ同じ日に撮影の依頼が重なるんだろう?ってことが多かったのですが、提携することで、そんなときでもお客さまに対してNOと言わず、お互いに仕事を融通しあえるようになりました。すると仕事がすごく楽になりました。ライバル会社であっても、仲良くやっていけば手伝ってもらえるし、仕事の幅が広がります。

ーー 具体的には

長崎放送株式会社(長崎県長崎市)の子会社のプロダクションで、後に東京に本社を置いた株式会社kiipl & nap(キプランド ナップ)(東京都江東区)と連携することになって、私がインフラ点検や撮影などで長期間出払っているときにテレビの仕事が入った場合などは、そちらにお任せすることもあります。反対に私が仕事を請け負うこともあります。そうやって、お互いに仕事を融通しあっています。外に出ていることが多くなって営業ができなくなったので、営業もお任せするようになりました。そもそも、テレビの仕事はディレクターからディレクターへの口コミでいくことが多いので、紹介を受けたところの仕事を積極的にやっています。

ーー ライバル業者と組む難しさを乗り越えるために必要なことは

相手を信用することじゃないでしょうか。そうはいっても中には、仕事を任せてみたら、その仕事を奪おうとする方はいます。そういう方々とはつきあわない。まずは話をして、確かめます。話をすればだいたいわかります。信用できる仲間を作って信用する。よくコミュニケーションを取ること。こちらからコミュニケーションを取ろうとしても拒否する方とはつきあわない。お互いに腹の底から話し合える相手とつきあうことじゃないかと思います。

人材育成は安全に飛ばせる仲間を増やすこと

ーー ところで、ドローンをやっていて嬉しい瞬間はどんなときですか

御輿来海外の夕日

自分が撮った映像がいっぱい流れると嬉しいですよね。先ほど話したようにディレクターの指示通りではなくて自分が提案した画が使われたときとか特に嬉しいです。最近では、撮影した映画のエンドロールに自分の名前が大きく出てきたときです。そこだけ写真に撮りたかったです。映画館だから無理なんですけど。映画など終わりのほうでメイキング映像を流すときに、自分の映像がいっぱい使われていたりするとすごく嬉しいです。逆にあんなにいっぱい撮ったのにこれだけしか使われなかったのかってときは残念ですが、自分の力不足を感じますね。また、地上カメラマンが撮影するはずの映像がドローンに切り変わっていることもあります。そのシーンをめぐって、地上のカメラマンとドローンとの競争みたいなものもありまして、そんなときは「勝った」って思っています。

ーー 受講生を指導するインストラクターでもあります。田本さんにとって人を育てることはどういうことですか

「安全に飛ばせる仲間を増やす」。その一言です。私が教えた方が法を犯して飛ばすことがないように、飛ばし方、技術、すべての航空法を理解していただけるように教えます。一般の方に教える場合ですと、手が空いているときに撮影を手伝っていただけるよう、お声掛けできるような関係にしたいですし、そういう輪を広げたいと思っています。講師の方たちにお教えするときは、相手もお仕事としてやっていらっしゃるので、ビジネスとして依頼できる仲間を作っていきたいと思っています。ドローンはまだまだ伸びる世界だと思っています。私は風力と水力に関しては素人ですが、飛ばす部分に関しては早くからやっているので、教えることができます。そういう場面でのスペシャリストを育てて、自分も一緒に学ばせていただけたらと思ってやっています。

ーー 一緒に学ばせていただくとは

スクールには、想像もしていない活用を考えておられる方が来られます。そんなときには「ドローンってこんなことに使えるのか」と逆に学べます。私もそれを見たくて現場に連れて行ってもらったりもします。自分の知らない世界がドローンに関わることでまだまだあるので、学ぶことはたくさんあります。知らない世界を知ることができるのは遊び場が広がる感じですかね。めちゃめちゃ好奇心の塊ですよね。

ーー ストレスがたまることはありますか

ハウステンボスの夜景

一番ストレスが溜まるときって仕事がないときなんです。たとえばテレビの仕事だったら、国宝級の中で飛ばすことができます。夜景や花火など、普通ではなかなか飛ばすことができないところで撮影も出来ます。点検も、普段は回っている風車のブレードは危険でドローンでは近づくことができないのですが、それを止めて撮影ができます。基本、風車は景色のいいところに立っているので、その景色をドローンで見ることができますし、バッテリーに余裕があれば風景の写真を撮ったりもできます。点検の仕事はずっと立ちっぱなしで帰ったあとは足が疲れたなど肉体的な疲れはありますが、ストレスにはならないです。仕事が楽しくて仕方がないので、仕事をやっているときが一番ストレスを発散しています。スクールも人とのコミュニケーションなので、楽しいですね。ただ、スクールでは安全に対してはすごく厳しいと思います。

ーー 操縦技術を身につけるうえで厳しさはありがたいという意見を多く聞きます

個人で受講される方はそういう方が多いのですが、会社の上司に言われて来る方の中にはそうでもない方がいます。個人で参加される方と、会社から派遣されて参加される方とでは、スクールの限られた時間内でどれだけ技術を身に付けるかという学ぶ姿勢が違うような気はしますね。

好きなことを目いっぱい遊びつくしてほしい

ーー 田本さんからみたドローンの魅力を確認したいのですが

三次元でものを見ることができるところです。私が20代前半の頃は軽飛行機に乗って被災地などの写真を撮る仕事をしていました。雲仙普賢岳の噴火のときも火口の移り変わりを撮影する仕事をしていました。決して下からは見えない所であったり、近づけない所から撮影できたりする分、危ないこともありました。セスナ機のような軽飛行機は特別低空飛行で最低高度が100メートル、それ以下では飛べません。そうすると建物を撮るとたいてい屋根しか撮れません。上空100メートルの高さから、建物の看板や玄関を撮ろうとしたらものすごい望遠レンズが必要になるのですが、それはほぼ不可能に近い。その部分の可能性をドローンが広げてくれました。いろいろなところで、まだまだ私が想像もできない撮影ができたり、想像もできない分野で使われたりもするので、楽しく使えるものだと思います。

ーー 最後に田本さんのようになりたいという人に向けてメッセージをお願いします

ええと、大人の方で僕のようになりたい、という方がいるんだったら、やめといた方がいいと言います。子供に対して言うのであれば「自分の好きなことだったらとことんやれ」と言います。たとえば、将棋の藤井聡太棋士、卓球の張本智和選手、彼らに勉強していい大学に入って就職しろという大人はいないじゃないですか。彼らは、将棋であれ、卓球であれ、世界に通じる技量を持って、すでに世界を舞台に活躍しています。きっと、彼らも最初は好きで遊びから始めたことだと思うんです。ドローンに関しても最初は遊び感覚でいいので、そこを極めていけば仕事になっていくのではないかと思います。仕事って多分、好きなことを極めて、人に負けないくらい頑張れば、それが仕事になる、というものなのではないかと思います。目いっぱい遊べ、人に負けないくらい遊べ、好きなことを極端にやれ、人に負けないくらい世界一遊べ、好きなことに対して人より努力しろ、僕のようになりたいと思う子供がいたらそう言いたいです。もしも人より努力することが苦手なら、つぶしがきくように勉強すればいいんです。好きなら遊びつくしてほしいと心の底から思っています。

<インタビュー/村山繁>

田本 久(たもと ひさし)

タモサンドローン合同会社代表/カメラマン

長崎を拠点に全国でドローンによる空撮を行う。TV番組やプロモーションビデオ、映画など、多方面で活躍中。
空撮以外にも、水力発電や風力発電など、主にインフラ点検の業務もこなす。
JUIDA認定講師として、各ドローンスクールへ講師として赴くなど多忙な日々を送る傍ら、カメラマンとしての顔もあり第64回長崎県展写真部門審査員を任命される実力の持ち主。
自身が代表をつとめるTamosanDroneの名前は、学生時代から呼ばれていた呼び名『Tamosan』が由来。