第8回:野元 善州さん/株式会社ノーベル UAV事業部長

安全運航で既存事業に価値を提供したい 書店員から運航事業者へ

熊本地震でドローンに出合い、運航事業の概念に触れて目から鱗が落ちた

ーー 全力で自己紹介をお願いします

よろしくお願いします。大分県日田市にある株式会社ノーベルという会社でUAV事業部長をしております野元善州(のもと・よしくに)と申します。会社ではいくつか事業があるうち、ドローンの事業を担当しております

ーー 公式サイトの「安心安全な運航をお約束します」をはじめ「安全」「運航管理」という言葉が印象的でした。

はじめて『安全運航管理』という概念に触れたときにとても感動しまして、それ以来、その考え方を大切にしています。ドローンでは撮影、農薬散布などとともに、スクールもしておりまして、そこでもこの話をしています

ーー はじめて「安全運航管理」に触れたいきさつとは

私は、もともと本が好きで書店員として書店業界で働いていました。ノーベルは弟が立ち上げた会社で不動産コンサルティングや特許製品を扱う会社でした。転機となったのは2016年4月の熊本地震(※2016年4月14日21時26分、熊本県熊本地方でマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測。16日1時25分にもマグニチュード7.3の地震が発生し、益城町、西原村で震度7を観測したほか、熊本県を中心に九州各県で強い揺れを観測した)です。私たちのいる大分県日田市も大きな揺れがありました。地震の後すぐにドローンを持っている方が駆けつけて測量や、空撮で被害情報を調査されているのを見て、ドローンに活躍する余地を感じました

ーー まず熊本地震をきっかけにドローンの活躍を目にされたのですね。それで、、、

はい。それで弟と、私たちもやらないか、という話になりました。調べてみてJUIDAを知り、ドローンスクールNDMC静岡校(静岡県静岡市)の小栗幹一さん(『憧れのドローンパイロット第1回』https://star.uas-japan.org/interview0001/)を尋ねて講習を受けに行きました。このときに使ったJUIDAのテキストに『安全運航管理』とあって、この概念に感動したのです。小栗さんもドローンの運航には体系的なマネジメントが必要で、操縦は大切ではあるけれど役割の一部であると話しておられました。また、安全運航管理を身に着けて趣味でなく産業として仕事をする、とも話しておられ、その考えにそれまで持っていた概念を覆されました。この『小栗イズム』ともいうべき考え方で、これならサービスとして仕事が成り立つと確信して、弟と事業にすると決めました。運航管理の必要性は学ばなければ分からないと思います。私はそれを学んで、感動して目から鱗が落ちました。スクールでは必ずその話をします

ーー ドローンを学びに出かけ、運航管理の重要性に触れたのですね。

運航事業が専門サービスとして成り立つと確信

ーー ところでドローンを学んで、仕事ができると確信したとのお話でした。どんな確信でしょうか?

はい。『運航』というものが専門業として成り立つという確信です。むしろそういう世界を私たちが作っていかなければならない、とも思いました。ドローンを測量や農薬散布に使うことは今に始まったことではありません。小型飛行機で航空写真を撮って地形図を作ったり、ヘリコプターを使って農薬散布をしたりすることも、もともとあります。一方、測量会社が自分達でドローンを保有して自前で測量をすることを考えた場合、安全管理はそれ自体が大きな業務内容であることに突き当たります。その部分を外注していただける仕組みを私たちが作っていかなければならないと思ったのです。ドローンを用いて既存のお仕事のお手伝いができるという確信です

ーー ドローンの運航に求められる高い専門性の部分ですね

そのためにはドローンの運航と、既存のお仕事、サービス、ビジネスと接続することでしっかりした成果が出来上がることをお示しすることが大事になります。そのお手伝いはドローンの運航でできます。そしてドローンの運航管理が専門分野のサービスとして独立した需要を生み出せるようにできるとも思いました

運航管理の専門性で需要を喚起する必要性

ーー 運航管理の専門性を示すことの重要性をどう意識しましたか

感覚的にはどうも誰でも簡単に片手間で飛ばして仕事にできるイメージがあります。実際、性能の高い、操縦が楽な機体が次々と手に入るようになってきました。しかし産業として安全な運航管理を約束するサービスを提供する場合は、それではいけません。風速を測ったり、飛ばすための準備をしたりと、それなりの準備も作業もするわけです。その様子を初めて御覧になった方からは『ドローンってこんなことしないといけないの?』と毎回のように言われます。あるときには『自動車の運転だったら時速40キロ制限の道路を50キロで走っても大丈夫だからドローンも一緒じゃないの?』と言われたことがありました。『それは違います』と説明申し上げましたが、そのように考えられる方も少なからずいらっしゃいます。これはむしろ、有人機に運航会社があるように、無人機に運航会社があってもおかしくないことを示していると思います。その需要を作っていくことが大事だと実感しました

ーー 実際に運航業務として受けたお仕事は

一例では農薬散布の業務があります。ご依頼いただいたのは、大型無人ヘリコプタ―で農薬散布をなさっている業者の方です。その方とは、少しずつ話を重ねていく中で徐々に信頼関係を築いていき、ドローンでお手伝いすることができるのではないかというお話を1年以上、時間をかけて続けてきました。大きな無人ヘリコプタ―は広いところが得意ですが、狭いところが大変なのです。お仕事先に盆地や狭い所、いびつな地形のところがあるとのお話でしたので、そこはむしろドローンが得意であることなどをご説明し、その結果、翌年から部分的にお任せいただけるようになりました。その会社はもともと、自社でドローンを扱うつもりだったと思います。スクールに来ていただいて、安全運航管理の専門性や、自社でやるなら5人くらい常駐の班を作らないといけない、などのお話もさせていただいたところ、そこが専門的な分野とご認識いただけました。ヘリコプターからお仕事を取ったのではなく、手が届かないところをドローンが補って、それぞれの特性を生かして共存共栄をさせていただいていると思っています

ーー 安全運航管理を伝えて気づいたことは

私が思っていたよりも、一般にはなじみが薄いことです。この3、4年は、運航という概念を伝えることだけを続けてきた気がします。『運航、運航』と言い続けてきた結果、5年がかりで行政や企業の方がようやく『運航』という言葉を普通に使われるようになってきました。それを聞いたときにはお役に立てていると実感できて嬉しかったです

JUIDAテキストのすばらしさを実感

ーー 運航管理の重要性に気づいて今や伝える側です

それができているのも、学んだときに使ったJUIDAのテキストの素晴らしさがあります。国家資格化になっても、運航管理者の重要性は別格ではないかと思っています。テキストに詰まっている中身は実はすごいものなんです。スクールでは、実習もしますが、お話するときに自分の経験も含めできるだけお伝えしています。例えば、違う事業者の事故現場などを続けて見てしまうとメンタルが引きずられてしまうこともあるので、そういうときは気をつけましょう、といったことを伝えています。できるだけ身近な例から安全運航について伝えたいと思っています

ーー スクールで教えるときに難しいことや大事なことは

ドローンを使用する、という概念の前提を育むのが難しいです。私たちが会社として大切にしているのは、ドローンを使う機運の醸成です。正しい知識を一つずつ身につけていただきたい。地元の行政の方にも安全運航の仕組みを知っていただくための活動をしています。その中で、行政の方にJUIDAの講習を受けていただいたこともあります。今もドローンの運航に関する前提の知識を学んでいただくための営業活動をやっています

ーー お話に耳を傾けてもらうための工夫は

最初にドローン事業部の設立のきっかけが2016年4月の熊本地震だったとお話しました。そのときに強く思った、地域の役に立つ、という発想が私たちの行動のベースであり情熱です。お話を聞いていただく方が、運航はよくわからなくても、私たちが地域のお役に立ちたいと思っていることを理解していただくことが、つながりをつくるベースです。実際、そういう方々とつながりができ、お仕事をさせていただいています。逆に理解していただけなければ、信頼の構築ができません。その場合はそこで飛ばすリスクが高いと判断し、そのお仕事はお引き受けしないことにしています

ーー 目先の仕事よりもまず信頼構築の姿勢が伺えます

2016年6月にJUIDAの資格を取った翌年、2017年7月に『平成29年7月九州北部豪雨』(※2017年7月5日から6日にかけて福岡県と大分県を中心とする九州北部で発生した集中豪雨)が起こりました。私たちの地元である大分県日田市は九州北部の暴れ川と言われる筑後川の上流にあたり、この川はよく氾濫します。親戚の家が浸水したので、家財道具や泥を掃き出していたのですが、その真裏では、被災している状況の川がありました。発生の翌日には山口大学の先生が来て、ドローンを飛ばして被災状況を調査していたんです。そこでその先生に『昨年、JUIDAの資格を取ったのですが、私たちに何かできることはありませんか』と相談をしました。そのときに、すぐに飛ばして記録することが大切だ、と教えてもらいました。そこで私たちもすぐにドローンで撮影をして災害対策本部に提出しました。災害が起こったときに撮影できる人は地域に一握りしかいません。こういうときにこういうやり方があると気付いて活動をしたのです。そうすると、防災訓練にも参加しませんか、とお声がけいただくようになり、そうした経験の積み重ねから、救援物資の実証実験をお引き受けするなどの実績につながっています。相手の方が私たちを理解してくださって、そこで信頼が生まれるのだと実感をしています。そういう形で人と人とのつながりができることは、もしかしたらドローンを飛ばすことそのものより楽しいかもしれません

広がってきた「安全運航管理の会社」の認識で事業環境の整備へ

ーー 地元の役に立つことと収益性についてどのように考えていますか

ドローンだけで生活を支えるのは本当に大変だと思います。
最初に初期投資が必要です。まずはそれを回収しないといけません。私たちも当初、採算が取れていませんでした。そこで次に、どうすべきかを考えます。ここで、サービス開発、つまりお客さまに直接、お役に立つサービスを考えることになります。教育事業も含めてドローンの運航がサービスに結びつく環境作りが大切です。私たちも今でこそなんとかやっていけていますが、今取り組むべき課題は、ドローンの運航というサービスが成り立つ社会づくりだと考えています。私たちは最初の確信通り、安全運航管理の書類はそれなりの対価が発生しなければならないものだと考えていて、それをお客さまにも伝えています。そこで納得していただくことが第一歩です。先日、クライアントから『ノーベルさんは飛行させて成果を作るだけでなくて、安全管理もしてくれるもんね』と評価いただきました。すごく嬉しかったです

ーー 安全管理が付加価値であることを理解いただいたのですね。また全国からお声がけがありながら、地元重視の考え方であるようにもお見受けします

私たちは地域に根ざした既存事業とドローンを接続することによって、よりよい付加価値を提案していく、まずはそこからだと思っています。地元の方々との出会いを大切に、ノウハウをしっかり身に付けて、私たちはドローンの事業者として新しい知識を身に付け、そこでシナジーが生まれれば、新しいサービスが生まれるのではないかと思っています。ただこうした環境や考え方が全国に広がることがあればとてもありがたいことだと思います。ですのでお話があれば全国どこへでも参ります

ーー ドローンの運航事業に大事な要素は

会社の業務としてドローンを運航させるということでいえば、チームでマネジメントをして、運航計画をしっかり立て、それに沿って実施し、完了させる。その実績を見ていただきご評価を受け、ご理解、ご納得をいただく。このすべてが大事だと思っています。この手順を見ていただけるようにすることが信頼につながるものだと思っています。報告書、計画書にあらわれるので、ドローンを飛行させるだけではなく、計画段階、その後の報告段階も含めてしっかりした業務をして、ご理解いただくことが大切だと思っています

「ドローン運航事業者はサンタクロース」説

ーー 書店員をしておられたと伺いました。ドローンと共通点はありますか

ドローンの情報は英語が多いので、計画書を作るために、資料を探して、拾って、自分から勉強しなければなりません。私は本を読むことが好きなので、そういった作業は苦にはならないです。私の場合、飛行計画を作ることに関して師匠がいなかったので、自分で資料を探し、本を読んで勉強し、飛行計画を作るという地道な作業は、自分の性格に合っていたと思います。ドローンを運航させているときは、ほどよい緊張感の中でやっています。ですので着陸をするとほっとします。自分で作った飛行計画にそってドローンが山の向こうに飛び、それがまた戻ってくると感動します

ーー 計画をたてること、そのものもお好きですか

最近は山を見るとウズウズします。標高などを考えて、ここならこうやって飛ばせるなと、ついつい考えてしまいます。自分でも知らなかった自分をドローンが開発してくれた部分かもしれません。ものの見方も勉強になっています。新たな勉強が次から次へとあるんです。法律や気象とか。ここは運用者が自分自身で深堀りしていかなければならない領域で、スクールでもカバーしきれません。そこを奮起させるのがスクールでの講師の役割なのかなと思っています。昨日の自分より今日の自分が成長できていると嬉しさを感じていただけるように導きたいと考えています。役に立たないと付加価値が発生しないのでお金をいただけないです。そして楽しくないと受講生は続けられません。せっかくなら楽しめるように、と思っています

ーー スクールで生徒に一番大切にしてほしいことは

やはり一番伝えたいことは「安全運航管理」です。安全運航管理を学んだときの感動や運航の概念を一緒に広めていってほしいです。たとえば「ニュートラルでいること」の大切さなども話します。ニュートラルでいるとより客観的にとらえられるし、より幅広い視野で見ていくことができます。リスクの原因の大きなところは主観だと思っているので、自身の精神的な立ち位置が安全に関しては大事だと話しています。私の場合、几帳面なところがありますので、飛行する日が2週間前に決まると3段階くらいに分けて準備をします。バッテリーやSDカードなど、予備の予備の予備まで準備をします。何かあっても対処できるという物質的な安心感を持つことで、精神的な安心感を得ています。飛行時間が長ければ長いほどリスクが高くなるので、発注者にも説明をします。ニュートラルで先入観を持たずに、を心がけましょうと話しています。また一つエラーがあると、次のエラーにつながるおそれがあることも講習のときにお話しします。例えば朝ごはんを抜くことが、墜落の原因になることもあります。普段通りがいかに大切か、経験を交えてお話しています

ーー 最後に、野元さんのようになりたい方へのアドバイスを

講習でも話すのですが、私はドローンの運航者はクリスマスの時期のサンタクロースのイメージでいます。サンタクロースが操縦者、トナカイとソリがドローン、そしてプレゼント(撮影したデータ)を届ける役割があります。私の想像では、サンタクロースのおじさんはクリスマス以外もソリとトナカイの手入れと世話をちゃんとしているのです。ドローンも一緒です。そこはしっかりしてあげてください。そうするとドローンを運航して、着陸して帰ってきたSDカードの中にはプレゼントが入っていて、それを渡して喜んでいただける。これは素敵な仕事ではないかと思っています。ドローンの運航事業者は、人に希望を与えられる存在だと私は思っています。適度な緊張は必要ですが、楽しくないと仕事が苦痛になります。苦痛はリスクにつながるので、自分が楽しいと思えるような仕事のスタイルを作っていただきたいと思っています

ーー 最後にリボンのついたとっておきの話をプレゼントしていただきました。ありがとうございました。

<インタビュー/村山繁>

野元 善州(のもと よしくに)

株式会社ノーベル UAV事業部長

2016年の熊本地震をきっかけにドローンの必要性を感じ、実弟が代表を務める株式会社ノーベルのUAV事業部創設に尽力。様々な企業や行政とタッグを組むことで地域に根ざしたドローンサービスを展開。運航分野は物流、農薬散布、測量、点検など多岐にわたる。
一方JUIDA認定ドローンスクールNDMC大分日田校のJUIDA講師として人材育成にもつとめ、官公庁へのドローン講習なども行う。
2021年大分県とJUIDAが共催のドローン点検技術管理者向け講座最終発表会にてサービス提供者コース1位を獲得。