第6回:髙本 浩一さん/株式会社Sky Shot World 副社長/一般社団法人 関西ドローン安全協議会 事務局長 ドローンスクールMaster講師

好きだと裏でコツコツと努力できる 空撮クリエイター・高本浩一さん

「飛行機好き」からエンジニア経由で“ドローンの人”に

ーーお名前とお仕事を教えてください。

髙本浩一(たかもと・こういち)です。62才になりました。動画撮影、写真撮影などの空撮、点検業務、測量などをしています。株式会社Sky Shot World(香川県高松市)の執行役員・副社長や、一般社団法人関西ドローン安全協議会(大阪府大阪市)の事務局長を務めています。関西ドローン安全協議会はドローンを飛ばすには安全意識と操縦スキルが絶対に必用だと実感していたので、2015年の航空法改正と同時に立ち上げようと思いました。法施行はその年の12月10日。設立がその年の12月28日です。それと、JUIDA認定スクールの運営もしています。JUIDAには初期の頃に参加しました。これも普及活動をしなくてはいけないという思いがあったので。

ーー全方位で“ドローンの人”ですが、いつからですか?

ドローンと出会ったのは1981年です。新卒で入った会社が川崎重工株式会社(東京都)で、初めて担当した仕事がターゲットドローン(標的機)のジェットエンジン開発でした。そこで開発の仕事を長くしたのちに、2000年に独立して、私の趣味であるラジコン飛行機やヘリコプターのショップを始めました。2010年にDJIのマルチコプター、PHANTOM 1との出合いがあり、直観で「これからはこの流れだ」と察知して、ドローン事業をやると決めて今に至ります。ドローンとは縁があるんですよね。

ーーもともと飛行機が好きだったのですか

大好きです。中学の頃から航空業界に行きたいと思っていました。自衛隊の航空操縦学生の試験を受けましたが、合格しなかったので、整備や開発のコースがある専門学校を見つけてそこに進学しました。卒業して川崎重工に採用され、入社後すぐにJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)に出向することになり、そこで研究・開発の仕事をしていました。航空関係にはずっと浸かってきました。その後独立してラジコンショップを始めました、日本ではあまり飛んでいない2m超えの超大型機の専門店をやりたかったんです。イベントフライヤーとしては、大きなもので翼長5m50cmあるラジコン飛行機を観客の前でアクロバット飛行をするなどをしていました。これ、痺れるくらいおもしろいんです。

出川哲郎さんの人気番組の空撮を担当

ーー空撮のお仕事として、テレビ東京の『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』に高本さんのお名前がクレジットされています

出川さんの番組にはレギュラーで入っていてかれこれ6年になります。ドローンで撮影する必要のあるシーンはすべて私が撮影しています。走行シーンや綺麗な景色、出演者が見たかった景色などを空撮しています。

ーーきっかけは?

今から7年くらい前、特番だった時代に、私がドローンを販売した制作会社から今の制作会社を紹介していただきました。ドローンを使って空撮がしたいという番組の狙いがあったので、その中で指名をいただきました。飛ばすことが楽しくて仕方がないので、天職だと思っています。ただ、ドローンの楽しさも、怖さもわかる。何が起こるかわからない、という要素を持つことも認識しています。なので私にはそれを伝える義務もあると感じています。

クリエイターとして「画づくり」にこだわり

ーー撮影のお仕事から学んだことは?

私が初めて空撮で動画撮影をしたときに感じたことは、操縦が完璧であることに加え、「画づくり」ができないといけないということです。私の場合、操縦には自信がありましたが、画作りが最初は分からなかったのです。それが分かるようになったきっかけは、ディレクターや監督に、ドローンからはこのように見えます、とアドバイスするようになったことです。「こういう画が撮りたい」という具体的な構想があると提案ができます。ないとできません。これから空撮を目指す方には、クリエイターであるという自覚をもって、そうなって欲しいと思います。

ーー仕上がりをイメージすることが重要なのですね

はい。できあがりの画を想像しながら飛ばします。ただし、実際にドローンを飛ばすと、想像と違うこともあります。そのときにはどうすることが最適なのかを瞬時に判断することが大切です。私も自分で撮った映像や、他人が撮った映像を何回も見て、こういう風にやった方がいいとか、切り替えた方がいいとか、最初の頃はそればかりやりました。画作りにこだわってきたことが、今の仕事につながっているのだと思います。瞬時の判断は大切です。たとえば走行シーンは、100%その瞬間しかないので、撮り直しがないように上手く撮らないといけない。状況が刻々と変わる中で瞬時に判断する。必要に応じて切り替える。そのためには、周囲の風景が頭に入っていないとできないので、現場での事前の準備も大事です。クリエイターの仕事は、ディレクター、カメラマンとの相性も大事です。担当ディレクターがどういう画を求めているのかを察知して、求めている画が提供できる努力はしています。

ーー求められていることを提供する努力は、企業が消費者やマーケットを満足させる努力と似ていると感じます

そう思います。例えば、ドローンを販売するにしても、一番大事なのは販売したあとのアフターケアだと私は思っています。売りっぱなしではなくて、買っていただいたお客さまが何に困っているのか、なぜ飛ばさなくなったのか。そこには必ず理由があります。お話を伺って困っていることが解決されるとまた飛ばされるようになります。そういう商売の仕方をずっとやってきたので、画作りも同じだと思っています。満足してもらわないとお声がかからない。だから、ディレクターとの相性が合うように工夫もしてきました。でも、基本は『好き』ですよ。好きでないとできないですよ。しんどいことだっていっぱいあるけど、好きなんです。バラエティーでもいい映像を残したい。いい画が撮れたときは「やったー、この映像!」ってディレクターとハイタッチしたことが何回もあります。

お客さまに喜んでいただけると自分にも喜びが発生する

ーー好きなもので要求に答えることを徹底しているのですね。

その通りですね。初期のドローンがまともに飛ばなかったので、改造を加えて納品してお客さまに喜んでいただけると、同じような満足が私にも発生します。それと同じです。「やった、ここ解決した!」って、いろいろ出てきた問題を一つ一つ解決してきたこの10年なんです。

ーーお客さまが喜んだら、自分にもその喜びが発生するんですね。

はい。ドローンスクールもそうです。もともとが安全普及とスキルアップのためにいろいろやってきたことをスクール化したので、他のスクールがどんなことをやっているのか私は知りません。受講生の方に満足して帰っていただく教え方が大事なのです。ただ、これはすごく難しいです。受講生それぞれが、上手に飛ばせるようになるきっかけは違います。そのきっかけやヒントを、講習の短時間の中で見つけ、この人にはこういう教え方が有効だ、というのを察知するのです。そうすると、それに気づいた受講生の方は満足して帰られる。そういう受講生は、卒業後にも「こういう時はどうしたらいいですか?」って後から電話があるものです。そういうスクールでなければいけないと私は思っています。

ーーこれも瞬間の勝負ですね

はい。瞬時の判断は大切です。そして、瞬時の判断に絶対に必用なものは、経験値です。経験が増えると引き出しが増える。瞬間的にどの引き出しを開けるかを判断することが大切になります。これは、安全にも繋がります。機体にトラブルが起きたときに、こういう時はどうすれば対処できるか、瞬間に判断しないと墜落したり事故なったりすることがあります。そういう経験値はいっぱい持っておかなければならないと私は思います。経験したこと、怖いと思ったこと、ヒヤリハットをデータベース化して、みんなで共有できるようにしたら、全体の安全意識が繋がってドローンの事故がどんどん減るんじゃないかと思っています。

ーースクールでの教え方にも経験に裏打ちされた瞬間判断が生きているのですね

集中して見ていると、ドローンの飛び方でどういう舵使いをしているか全部わかるので、何を教えてあげたらいいかのかがわかります。それでもダメなときは、また違う方法を考えますね。

ーー乗り越えるべきポイントをピタリと言い当ててくれるのは受講生には心強いですね

自転車の乗り方や鉄棒を教えるのと一緒です。体を使うものなので。私自身も天才ではないので、努力して今の操縦技術を身につけたと思っています。いつも人前でカッコよくいたいので。そうとう努力はしたつもりです。飛ばすのもカッコよく見せたい。そのために裏で努力をしないと、自分の思うように飛行機もドローンも飛ばない。だから努力は必要だと思います。

カッコよく見せましょう、と教えること

ーークリエイターの仕事は相手も自分も喜ぶことという考え方ですね

自己満足が最後に絶対あるんです。それは必要だと思います。例えば私は基本的にドローンを飛ばすときに1分1秒でも短く飛ばし終えることにしています。早く地面に着陸させることが安全だと思っているので。満足の種類のひとつに、時間があると思うんです。そのときの自分の中での満足は、他の人より早くできたでしょ?だから次もお願いしますね!みたいな感じです。もちろん成果はきちんと納品します。

――お仕事を獲得する営業活動は?

実は私は、営業をしたことが全くないのです。ドローンの販売をしていますが、当初は制作会社がすごく多かったんです。販売先から今いるスタッフではどうにもならないのでやってくれませんか? と依頼がきて、私が現場に行ってサポートをして満足をしていただける。そうするとその会社からまた仕事が入り、紹介も入るといった形です。番組の撮影も、1年分のスケジュールがあらかじめまとめて入ります。撮影スケジュールに合わせてドローンスクールやほかのスケジュールも決まります。

ーー仕事の依頼が循環ですね

スクールで私は必ずデモ飛行をします。必要な操縦スキルをわかってもらうには、口頭よりもお見せしたほうが伝わります。必ずやることの一つが、離陸の時に「こういう風にやったらカッコいいでしょう? こういうカッコよさをお客さまに見せてください。これは営業手法の一つですよ」とお伝えしています。スクールに関しては予約がかなり先まで入っていて、なかなか空きがない状態です。スケジュール的に月1、2回しか開校できなくて。マンツーマンで教えているのでなかなか受け入れられないという事情もあります。

ーーマンツーマンですか?

はい。マンツーマンで教えています。1人に1機を割り当ててずっと飛ばしてもらいます。さきほどの、「きっかけ探し」の作業が、その中にあります。そうやって受講生が最終試験に合格すると、受講生、スタッフ、みんなから拍手が湧きあがります。卒業生にもスクールを開催する時は練習しに来てくれって絶えず言っています。アフターでの練習会にも結構来られます。卒業後も受講生との交流は深いです。この仕事は、やっていて楽しいし、幸せです。肉体的にはしんどい時もありますが、それを上回る喜びが必ずあるので、やっていけているのだと思います。

努力するために「好き」が大切

ーーこれからは?

教えることをやりたいと思っています。今まで自分がやってきたいろんなことを人に教えることに楽しみを見つけています。私は訪れてこられた方には最初に、自分から心を開くようにしています。そうでないと次の実技に繋がりません。受講生が頑なに心を閉ざしたら、上手にならない。コミュニケーション作りは大事です。

ーーこれからクリエイターを目指す方、髙本さんのようになりたいと思う方に向けてアドバイスを

まず好きであることが大事かと思います。どんなことにも努力が必要ですが、努力をするためには喜びがないとできないと思うのです。技術面で言うとドローンって実は深いし難しいんです。今はGNSSに支えられているので、なんとなく簡単に思えますが、そこで今まで考えもしなかった舵を入れることができるかできないかは、努力しなければわからない。その操縦スキルとクリエイター感覚を養うためには、色んな映像を見て、経験を増やし、感覚を磨く努力が大事になります。私も最初は、自分の撮った映像を、どこが良かったか、どこが悪かったかというのを繰り返し見ました。別の方が撮った映像も同じように繰り返し見ました。思い通りの画を撮るためには操縦技術を身に付けることが絶対に必要です。

ーー努力を積み重ねるベースは「好き」なのですね。

絶対です。加えるなら仲間も必要です。喜びを分かち合えますし、切磋琢磨できます。あいつより絶対うまくなりたいとか、そういう環境は大事だと思います。私もそうです。いつもカッコよくありたいので(笑)

ーーありがとうございました

<インタビュー/村山繁>


髙本 浩一(たかもと こういち)

株式会社Sky Shot World 副社長
一般社団法人関西ドローン安全協議 理事・事務局長

子供のころから飛行機に憧れ、夢に近づくため、航空関係の専門学校卒業後、航空機のエンジン開発の仕事に就くも、よりこの楽しさを飛行機好きな仲間と共有したいとラジコン・空撮会社を立ち上げ、「夢を形に!夢を空に!」最高の夢の共有を目指している。空撮歴12年の経験を活かし、テレビ東京の旅バラエティー番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」の空撮を担当、その他TV番組やCM撮影、点検業務や測量、ドローンの特殊用途に応じる企業研修と多忙な日々を送っているが、「夢」に向かって幸せな時間を過ごしていると自覚している。
SoramichiドローンスクールやPASドローンスクール大阪の特別講師としても活躍中。