社会のためにできることがあればなんでもやりたい
「トータルでオペレーションを見る」ことの重要性
―― 自己紹介をお願いします
株式会社ダイヤサービス代表取締役の戸出智祐(といで・のりゆき)です。ダイヤサービスはドローンのサービスを提供している会社です。ドローンスクールも運営していて、ここでは独自カリキュラムを加えた講習を提供しています。このカリキュラムの考え方に賛同するスクールの団体としてドローン・オペレーション・サービス・アライアンス(DOSA: Drone Operation Service Alliance)」も組織しています。私自身は、オペレーション、コンサルティング、スクール講師のほか、ご依頼をいただく業務を幅広くお引き受けしていますが、主にトータルでオペレーションを見ることが多いです。そこでは飛ばすことをこなしたうえで、必ず付加価値をつけることを意識しています。トータルで見ることは付加価値を提供するうえで大事なことだと思っています。
―― 付加価値をつけることの意味とは?
ある企業が外部の企業に頼るのは、依頼内容の中やその周辺のどこかに弱みや苦手があるからだと考えられます。ドローンを飛ばすことをお引き受けしたうえで、その企業の弱みや苦手部分もご提供できれば、依頼企業にも喜んでいただけることと思います。喜んでいただけたら私たちもうれしいので、次はどんなことで頑張ろうかな、と意欲をかきたてられるのです。私たちは企業が抱えがちな弱みや苦手分野を探して、その解消方法を模索し、確立し、データやノウハウを蓄積しています。それによって別の依頼にも応用でき、迅速に的確に対応できます。付加価値をつけるための創意工夫はいまでは仕事をするうえで当たり前になっています。
―― 付加価値が信頼獲得に繋がりそうです
私はドローンを始める前に顧客管理メソッドのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント/※1)を学んでいました。新規の飛び込み営業は大変で、今もそうですが、私は苦手だったんです。CRMで「顧客といかに接点を持ち続けるか」を考えるとき、仕事を誰かに依頼することは、依頼主が一定の成果を期待することを前提とします。成果が得られれば依頼主には満足していただけます。しかし、依頼主と発注者の関係はそれで完結します。それが次につながるかどうかはわかりません。そこで大事なことが、プラスアルファがあるかどうか。付加価値があれば満足を超えて感動が生まれることがあります。そうすると、完結してもおかしくない関係なのに、その後も自分たちに依頼してくださることがあります。オペレーションでも、スクールでも、コンサルティングでも、プラスアルファとして自分たちが提供できることは何か、ということは必ず考えています。それが結果的に良い評価をいただいているのだと思います。
事前準備は満足と感動の下ごしらえ
―― 仕事ではどこに一番時間をかけますか
オペレーションの仕事をお引き受けした場合でも、実際に飛ばしている時間は仕事全体の1割もないのではないでしょうか。かけている時間は準備の部分が圧倒的に多いです。オペレーションを全体的に見て、いかに成功させるかが大事なので準備は多岐にわたります。
―― フライトの成功とオペレーションの成功は違うのでしょうか
フライトは大切ではありますが、オペレーション全体の一部です。オペレーションはパイロット1人ですべてができるわけではなく、関わる方がたくさんいます。全員が満足できる状況に持っていくためには準備段階からいろいろとするべきことがあります。必然的に準備に時間を要します。これは満足と感動の下ごしらえだと思ってやっています。下準備には例えば、緊急時の墜落場所を事前に決めておくことが含まれます。有事の際にとっさに判断するのは難しいので、あらかじめ決めておくなどの準備を日ごろからしています。
―― 理想の仕事の形はありますか
操縦だけではなくトータルでオペレーションすべてを任せていただけることでしょうか。与えられた環境の中で、自分たちがどれだけノウハウを蓄積し、次に生かせるかを心がけていますので、トータルでオペレーションを担う環境があることで、企業としてより成長できると考えています。現場で学ぶことも多いのですが、その前提として興味を持つことも必要だと思っています。興味を持つとその目線で物事を見るようになるので、わからなかったら自分で調べます。そうやって溜めてきたノウハウが、私たちの財産になっています。
―― 救助支援システム「3rd-EYE」(サードアイ/※3)もこれまでのノウハウの蓄積からできたのでしょうか?
ドローンを始めた理由の一つが、直観的に災害で使えると考えたことです。ただし災害で役立てることは簡単でも単純でもありません。2020年の九州豪雨では、インフラ点検のために現地に入りました。ここで実感したことは、どれほど自分たちにドローンの知識や技術があっても、災害のプロフェッショナルでない者が災害現場にずかずかと入って行くべきではない、ということでした。二次災害を引き起こしてしまう可能性すらあります。これは絶対にやってはいけない。現場のプロフェッショナルの方にやっていただくほうが間違いない。だったらその方たちを手助けすることこそ大事だし、そのツールが必要だと感じました。そのころ、昔からおつきあいがある、AIソリューション開発を手掛ける株式会社ロックガレッジ(茨城県古河市)から「3rd-EYE」の構想を伺う機会があり、現場のプロフェッショナルがオペレーションを担うべきであるという私の思いと重なり、一緒に開発させていただくことになりました。
「負傷者救護」を必修化 理由は「伝えるべきことだから」
―― DOSAを作って独自のカリキュラムで民間資格のスクールと登録講習機関のスクールを運営されています。カリキュラムは、チーム全体で安全確保に取り組む航空従事者の考え方である CRM(Crew Resource Management/※2)を取り込んだことが特徴的です。このカリキュラムにした理由や受講者の反応を聞かせてください
もともと私は自動車整備の会社をしていました。そこからドローンを始めて一人で仕事をしていたので、自分の頭の中に仕事の基準がありました。おかげさまで従業員を雇うことになり、チームを構成する従業員が働きやすくする環境を作るためにどうしたらいいかを考えました。自分の頭の中にあるものを共有すればいいのですが、一からマニュアルを作る時間も限られています。そこでまずチェックリストを作ってみました。するとその部分についてチームのメンバーが責任を持って取り組むようになり、こういうツールの必要性を実感しました。そこでほかの組織のチームビルディングに興味を持ちまして、参考にしたのが空の事業の大先輩である航空業界でした。そこでCRM(※2)を知りました。詳しく知りたくなって、オンラインで講習を受け、文献で研究しました。学んだことを実践に取り入れました。それが実にうまく機能しました。必要性を実感し、自分のチームでも機能したのですから、多くの事業者にとって役立つはずだと考え、CRM(※2)を講習のカリキュラムに入れることに決めたわけです。登録講習機関では必ず教えるべき内容が定められているので、独自性を打ち出す意味でも採用を決断しました。
―― 負傷者救護もDOSAのカリキュラムでは必修化しています
負傷者救護に関しては、自分自身が何回も危険な目にあっていることが関係しています。ドローンの業務は危険と隣り合わせの面があります。一方で一度事故を起こしたりけがをしたりしてしまうと、よくない事業者と決めつけられてしまう風潮もあります。でも実際に大切なのは、事故を起こした事業者を排除することではなく、危険をできる限り回避する努力を根付かせることです。事故が起きた際に「ここまではやった」と言えるだけの知識や技術を持ちあわせれば、少しは現在の風潮を変えられるかもしれない。そんな思いがありました。たまたま地元で自治会長や、防災会長も経験していましたので、多少の知識もありました。怪我をしたときの対処法も勉強しました。トータルで考えて負傷者救護は必要だと考え、カリキュラムに取り入れることにしました。航空法で負傷者救護は義務化されましたが、私たちはそれ以前から民間講習で伝えてきています。またその教材をつくるにあたっても、看護師を採用したり、客室乗務員や救急救命士に助言をいただいたり、お役に立てるようにこだわりをもって作りました。私自身も応急処置などの対応ができるようになり、その指導もしています。
―― 国家資格対応のカリキュラムにもこうした科目を含めています
CRMについては、登録講習機関のテキストに載っています。国として必要だから教則に載っているわけであり、そうであれば必ず伝えるべきことです。伝えるべきことをしっかりと伝えるのが、スクールとして、講師としての役目だと思っています。負傷者救護も航空法で義務化されました。やらなければいけないことです。その方法を我々は知っています。知っているなら伝えなければいけないと思っています。私はよく「エアマンシップ」という言葉を使います。空に携わる者として、スキルと知識の両方を大切にし、ルールを守って基本に忠実なフライトを徹底するようにしています。また、自分のミスもきちんと認めるというスタンスです。この考えを大切にしています。
―― 運用の現場で万が一のことが起きることを想定する必要があります
まさに自分たちがそういう立場で仕事をしてきました。人里離れた山奥や田舎の海辺で、救急車を呼んでも到着まで時間がかかります。心停止から3分、呼吸停止から10分、多量出血から30分で救命率は極端に低くなります。自分たちでやれることはやるべきと、身を持って経験してきたことの結論としてやっています。私の信念の一つに、困ったときはお互いさまというのがあります。災害で困っている方がいて、自分が助けられたらいいのですが、いつもそうとは限らない。でも直接助けることができなくても、間接的に助けられる方法ならあるのではないか? 頭にはそういう考えがいつもあります。
―― 国家資格の試験に1問も出てこないかもしれない項目を受講生に伝えるさいの工夫は
自分たちの具体的な経験を伝えることを意識しています。受講生は、ただドローンを飛ばすためだけに学びに来るわけではありません。ドローンを活用して何かをしたいと思っています。私たちはその「何か」に役立つことを伝えなくてはいけない。CRMも負傷者救護もその「何か」に役立つこととして伝えなければいけないことだという考えです。教則本に書いてあることはもちろん大切です。そのうえで、現場で得られた知見を共有して、受講生の皆さんが同じようなヒヤリハットを経験せずに済むよう考えています。「飛ばせます」というだけで仕事に繋がることは少ないと思います。自分たちの経験を踏まえて、いかに理論武装、技術武装をしていくかが大事だと思っています。
人道支援に関わりたい 関わる範囲は明確化したうえで
―― 仕事で嬉しさを感じるときとは
私たちの会社やスクールを選んでよかったといってもらえたときです。スクールでは受講生が実際に現場でオペレーションとして運用できていると聞くのはすごく嬉しい。中には、受講生の所属する業界内で名前が広がることがあります。そんなときにはそれまで力を尽くしてきたことが報われた感じがして嬉しいです。
―― こういう仕事ならやりたいという仕事は
やりたいのは人道支援に関わる仕事です。これは積極的にやりたいと思っています。ただ、災害現場で直接飛ばす際は、二次災害を起こさないために協力を求めなければならないと思っています。私たちは、もし災害現場に行くとなったら、進行するのか、ストップするのか、撤退するのか、その基準を設けています。自分ひとりで行くのではなく従業員がいるので、連れて行く以上従業員の命を守らなければなりません。
―― 基準を設けているのですね
はい。迅速な判断のために基準が必要だという考えです。作業をルーティン化しているのもその一環です。ルーティン化によって、抜け漏れが減ります。ゴルフではプロゴルファーが、アドレスに入ってから打つまでの流れをルーティン化させていることが知られています。私もそれと同じように抜け漏れを減らすように努めています。たとえばコンディションが航空に適しているか否かを判断するため「I’M SAFE」という簡単なチェックリストがあります。ILLNESS(病気)、MEDICATION(服薬)STRESS(ストレス)ALCOHOL(飲酒)FATIGUE(疲労)EMTIONS(感情)の頭文字で、私はフライトの前日からこれを確認しています。
―― 設定された基準の明確化と可視化に役立ちそうです
はい。それに業務が滞りなく進むため、チーム・関係者の安全性が高まります。ドローンそのものに対するネガティブな印象をぬぐう効果も持ちます。業界全体の健全性が高まらないと私たちに寄せられる仕事にも影響しますから。当社のホームページには「便利なツールを正しく安全に」と、コンセプトを表明しています。これは儲かりさえすればいいわけではないことを、自分たちに言い聞かせている意味もあります。クライアントのためであり、業界のためであり、自分たちのためであることを肝に銘じるためにも大切なことです。
産業化に必要な腕に頼らない自律飛行 それでも技能が必要な理由
―― ドローンスクールで、操縦技能を教えることの意味とは
ドローンが産業用として根付くには8割以上自律飛行をする必要があると思っています。ロボットという位置づけです。優れた技能を持つ個人の腕に頼っていては発展しません。むしろ無人化に向かうべきです。そうなると、自動で動くものについて私たちの技量が問われるのは、咄嗟のときです。咄嗟のときといっても、ドローンは何かあれば、真っ逆さまに落ちるだけで、そこは数秒しかありません。そのために技量が絶対に大事になるのですが、技術だけでは足りない。むしろ自律飛行でオペレーションをするためにはどうすればいいのか、何が必要なのか、そこが大事なのではないかと伝えることが大事なのです。自律飛行を目指す過程として、人が操作する技量を持つ必要がある。自動で動くなら、自分の身の守り方、知っておくべき共通のルール、プロジェクト完遂の要素を教えた方がいいという思いです。
―― 「空の利活用」という言葉をよく聞きますが実際は進んだと考えますか
進んだとはいえ、まだまだです。スタートラインに立ったところでしょうか。社会受容性が高まらないと広まらないと思います。現場で感じるのはまだ怖がる方が多いということです。怖いという意味では、操縦している私も怖いです。機体の成熟、オペレーションの成熟も必要なので、もっと向上、習熟、改善、発展が必要だと思います。
―― 社会受容性の醸成にはオペレーターや事業者の信頼や技量の証明が重要と聞きます。資格制度は成果があったと考えますか
あったと思います。やらなければならないことはまだ山積みだとも思いますが。振り返るとJUIDAがライセンス制度を導入したことは、空の利活用を担う人材の裾野を広げることに貢献しました。私もDOSAを作って、空の利活用を広げることを志しています。同じ空の利活用の推進を志している者として、JUIDAの存在はとても心強いですね。安全についてDOSAもJUIDAと同じ思いで取り組んでいると感じます。これからはどこであろうと手を取り合って、一緒にドローンの普及を進めていかなければならないと思っています。手を携えながら、共にテクニカルスキルだけではなくノンテクニカルスキルの知見と技術を持ち合わせたドローン運航者を世に送り出して、空の利活用の推進に貢献ができればと思っています。
ラッピングもピンクリボン支援も社会に役立つと思うことを
―― ダイヤサービスは機体のラッピングサービスも提供しています
ラッピングは、ドローンが正しく普及するための運動の一環です。自動車のラッピングをしていたので、その技術が生かされています。
―― 自動車整備からスタートしていますがドローンに繋がっていることはありますか
例えば、運送業としてのトラックは必ず運航前点検をするのが義務化されています。乗用車・一般の車もやるように推奨されていますが、実際にボンネットを開けて点検する人はいませんよね。今回、航空法で飛行前点検が義務化されましたが、その前から産業として車を扱う方たちは点検が義務化されているのだから、遅かれ早かれドローンもそうなると思いますし、業務なのだからやるべきだと思いますと常々言ってきました。たまたま自分が自動車整備をしていたので、自動車整備とは共通項が多いかもしれません。
ーー 乳がんの早期発見・治療を啓発するピンクリボン運動の応援もしています
実は私の友人が乳がんで若くして亡くなっています。気付いたときは手遅れで余命何か月というケースでした。日本ではなかなか検査にいかない状況がありますので、何か自分たちでやれることがあればやろうと決めていました。一昨年、昨年とやってきて、今年もやる予定です。社会の役に立つのならいいことです。ドローンの技能や知見と直接の関連があるように映らないかもしれませんが、よりよい社会になることをしたいという意味ではいいことだと思ってやっています。
ーー 戸出さんが根幹で大事にしていることが伝わるお話ですね
いい社会にしたいんです。ドローンも世の中の役に立てばいいと思っています。その一つが災害対応です。
―― 最後に読者にメッセージを
「正しく怖がりましょう」と口ではよく言います。文字にすると「怖がる」がネガティブな印象を与えてしまうので、いつもは文字にはしないのですが、講習でもよく言います。ビクビク怖がっていても何もできないのはよくないし、一方で何も怖さを知らずにやってしまうのもよくない。バランスがすごく大事だと思っています。何か起こらないためにも、いろいろリスクヘッジをやっていきましょうね、と伝えたいですね。
―― ありがとうございました
※1 CRM(Customer Relationship Management/(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント/):日本語では「顧客関係管理」または「顧客関係性マネジメント」などと訳される。製品やサービスを提供する企業が、顧客との間に親密な信頼関係を作り、購入してくれた顧客をリピーターに、リピーターからファンになるような活動を行い、顧客と企業の相互利益を向上させることを目指す総合的な経営手法
※2 CRM(Crew Resource Management/クルー・リソース・マネジメント):航空分野で開発された概念で、安全な運航のために利用可能なすべてのリソース(人的資源や情報など)を有効活用するという考え方
※3 3rd-EYE(サードアイ):自律飛行するドローンからの映像で要救助者をAIで割り出しスマートフォンやスマートグラスなどにリアルタイム表示させる災害救助支援技術。災害現場にかけつけた救助隊員が3rd-EYEを搭載したスマートグラスを装着すると、上空を飛ぶドローンの映像を組み合わせることで要救助者の存否と位置を見極め、迅速な救助を支援する。夜間捜索時や目視が困難な場所の捜索を助ける技術として消防などが注目している。
戸出智祐(といで のりゆき)
株式会社ダイヤサービスの代表取締役。青山学院大学理工学部機械工学科卒業。2015年よりドローン業務に着手。ただ飛ばすだけではなく、いかに安全にドローンを運航・オペレーションするかを包括的に学んでほしいという理念のもとDOSA管理団体を運営、講師としても活躍中。一方で受託した仕事には必ず付加価値をつけて対応するという経営者としての顔ももち、多忙な日々を送る。物流の実証実験をはじめ、災害支援に向けた仕組み作りなど、ドローンの利活用が進む未来を目指して日々奮闘を続けている。