第9回:山﨑 英紀さん/合同会社 ざきやま 代表社員/日本ドローンアカデミー講師/プロテレビカメラマン/一般社団法人 無人航空機災害時支援協力事業体 代表理事

慕われる背景に技能、知恵、姿勢の裏付け “ドローンのザキヤマ”山﨑英紀氏

本業は講師 ほかに捜索支援、橋梁点検も

ーー 山﨑さんは“ドローンのザキヤマさん”で知られています。ザキヤマさん風に自己紹介をして頂けますか?

スクールでは『日雇いの季節労働者です』と自己紹介しています。あとは、『JUIDAナンバー1講師のザキヤマです。何がナンバー1かは聞かないでください』と言うこともあります

――いろいろナンバー1ですよね

おやじギャグの数とか

――えーっ、、、別のいろいろでお願いします、、、

本業はドローンスクールの講師です。テレビ番組のカメラマンとしてお世話になっていた会社が出始めのころにドローンを導入したので、それを使ってみたのがドローンに触れた最初でした。当時はJUIDAスクールもなく、ラジコンショップが主催していた全国各地の安全講習会に出向いて学びました。そこからドローンの業界に入っていくことになります。千葉で初心者講習会を開いたときには、『日本ドローンアカデミー』(株式会社ENBUゼミナールが運営するパイロット養成スクール。JUIDA認定校)の事務局の方が参加されていて、そのご縁で今も日本ドローンアカデミーでスクール講師をしています。これが本業です。

ほかに、山で遭難した人をドローンで探すプロジェクトのお手伝いをしていて、このプロジェクトは、2016年秋に北海道上士幌町で開催された『第1回ロボットによる山岳遭難救助コンテスト2016』が発端で、そのため北海道の上士幌町に住んでいます。2021年からは4月から10月にかけて北海道で活動していて、その間は一般社団法人Japan Innovation Challenge(東京都港区)の捜索支援チーム『NIGHT HAWKS(ナイトホークス)』隊長が活動の中心です。ただ日本ドローンアカデミーのスクールがある時は、東京に帰って来て講師をしています。そのほか、卒業生の手伝いとして橋梁点検などもしています。『季節労働』と名乗っているのはそんなわけです

ーー見事にいろいろですね。ほかに、ドローン関係者の中には災害対策で名前を聞いたという方も多いと思います。2014年の広島土砂災害では効果的な空撮映像を提供されました。

ドローンは確かに用途が広がっていますが、用途ごとに得られるメリットは違います。デメリットもあります。たとえば空撮では、ヘリコプターをチャーターしなくても、それまで地上からは撮れなかったアングルで撮れるようになり、色々な角度からのアプローチが可能になったので映像表現が広がったというメリットがあります。農薬散布では、農家の方がタンクを背負って防護服を着て手撒きをしたり、トラクターにスプレイヤーを取り付けて撒いたりしていた苦労から解放され、簡単に短時間で撒けるようになったことがメリットです。農業では健康被害を減らすこともできます。点検では、足場の組み立てやクレーンのアームを使わなくてよくなりました

「端から端まで撒きました」でなく「いいお米がとれますね」と伝える意味

――空撮も農業も点検も、それぞれの従事者には求めていることがあると思います。求めていることが異なる相手にドローンのよさをどう伝えていますか?

ドローンを全く知らない方には、導入によって時短できること、コストが削減できることなどを話します。農薬散布だと手撒きやスプレイヤー利用などと比べることになりますが、粒剤を手投げするときとドローンでまくのとでは明らかに時間が短くなります。その空いた時間で別の作業ができるので、人を増やさなくても効率よく作業ができると説明をします。また、ドローンを自分で自動航行させたいという農家の方には、登録すれば毎年同じように同じところを飛び、費用対効果が出るという話をしますが、風向きなどその時々の条件によって注意点があることや、万能ではないという話もします。ドローンを使うことで作業効率はよくなりますが、収量アップを保障するものではないことも話します。ドローンを使ったら売り上げが上がるというような売り方をしている方がいることや、それによって失敗したといった話を見聞きするので、正直に伝えないといけないと思っています。それから、伝え方についても、工夫をしていることがあります。たとえば農薬散布では、プロとして請け負った以上、端から端まできっちり決められた量を均等に撒くことが求められています。私は撒き終わった後に『端から端まできっちり撒きましたよ』と言うのではなく、『今年もおいしいお米がたくさん採れますね』といった言い方をします。農家の方がどんな気持ちでお米を作っているのか。その気持ちに寄り添うよう心がけています

ーー寄り添うことを大事にしておられるのですね

 はい。撮影であれば、撮影者がいい画が撮れたと思っても、依頼主にとってそうではないことがあります。依頼主が描いているイメージを撮影者自身が理解することが第一にすべきことなのです。プロであろうが自分の腕がいいからと過信せず、依頼主の求めているものに寄り添って、それに近いものを提供しようとすることが大切です。私が師匠から教わった例えなのですが、お店で商品を販売するときに、在庫を一生懸命売ろうとしても、お客さまが求めているものでなければ買ってもらえません。反対にお客さまが求めているものであれば、高くても買ってもらえます。いかにお客さまの求めに合ったものを提供するかが大切だというわけです。以前見たテレビ番組が印象に残っています。そこではデパートの販売員の方が、お客さまとの雑談の中から、相手が求めているものを探って、提案し、購入に繋げていました。その販売員の方が言うには『お客さまが家に帰って箱を空けた瞬間の喜んでいる顔を想像しながら売っている。そのイメージが大切なんだ』ということでした。私も撮った映像を見た依頼主から『これ、いいですね』と喜んでくれることをイメージしながら撮影をしています。そのためには依頼主が何を求めているかをちゃんと理解して、一緒に作業を進めていくことが大切だと思っています

スクールで初日に「操縦する人をサポートする人も重要」と伝える理由

ーー顧客理解はどの分野でも重要かつ難題です。ドローンでも操縦技能と同じぐらいお客さまの要望に応えること、信頼されることが大切だと感じました。

私どものスクールの場合、座学が1日目です。皆さん、お金を払って効果を求めて来られています。その最初に適性の話や、免許や資格を取ったからといって上手になるかどうかはその人次第、といった話をします。全員がパイロットになる必要はないこと、操縦する人をサポートする側も大切な仕事であること、実際にドローンを飛ばしてみて向かないと思った場合には、自分が飛ばす側なのか飛ばす人を支える側なのかを見極めることが大切であること、などを伝えます。JUIDAの『安全運行管理者』は他にはない資格で大切な役割を持っています。大きな案件になればなるほど、このポジションは重要になります。ドローンを知っているか知らないかでは、大きな差があることもお話します。つまり、知っていること自身がとても大切なのです。そのような話をすると、はじめのうち挑むような眼をしてこわばっていた表情が、話を真剣に聞く表情に変わってきます

ーー講習で大切にしていることは?

「座学ではワークやチームビルディングを織り交ぜて双方向でのやりとりができることを工夫しています。それと受講生の方が何を目指しておられるのかを理解し把握するためにヒアリングもしています。スクール開始当初は空撮系が多かったのですが、最近では安全管理をする方、点検で飛ばす方など、空撮以外にも目的を持って来られるようになりました。カリキュラムにそって進めながら、受講生それぞれの方向に添ったフォローをします」

ーー受講生の声に耳を傾けることは、事業者が取引先の声に耳を傾けることと同じ重要性がありそうです

卒業後にこそ耳を傾けることが大切になることを伝えているつもりです。売れるドローン屋と、売れないドローン屋とを分ける要素は、本人の心がけ、コンセプト、ポリシー、お客さまにどれだけ寄り添えるか、などの要素だと思います。たとえば、点検の仕事ではパターンが決まっていません。現場ごとにケースバイケースです。ゼロからシステムを作らなければならないところもあります。なぜ、ドローンを使いたいのか、依頼主が何を求めているのか、しっかり共有して話を進めることが必要です。ドローンが入れないところでの撮影も想定して、ドローン以外の撮り方も含めて作戦を立てる必要が出てくる場合もあります。点検は決まった「型」でできるものではないので、そこが難しいところであり、面白いところでもあります。生徒が求めている業種がどういうものかによって異なりますが、その業種に沿ったドローンの使い方、方法を自分なりに考えられるようになって欲しいので、座学の時間ではリスクアセスメント、リスクマネジメントの話もしています。卒業してからが本番なので、それぞれ自分で考えてサービスを作り出してくださいねと、伝えています

ーースクールでは実技で技能、座学で腕(知識)を学びますが、両方を通じてドローンを業務で使ううえでの姿勢も学ぶことになろうと思います。腕、知識、姿勢の3つで最も大切なものとは

腕がないと何もできないところはあります。しかし、腕のいい人にカバー、フォローしてもらうことも可能です。その意味では姿勢がないとお客さまに信頼していただけないので、非常に大事です。座学の時間に、ハッタリも必要ですよと話をすることがあります。私の言うハッタリとは、『この人に任せておけば安心』という現場の雰囲気を作る、という意味です。そのために伝え方が重要になります。それに腕が付いてくるといいですね。その意味では3つの要素はいずれも必要です。姿勢というのは、細かいところに出てしまいます。私は北海道のチームで教育を担当しているのですが、墜落や接触を除いて機材が壊れるときは、機体をしまうときに原因があることが多いのです。ちゃんと格納していなかったとか、ゴミがついていたとか。それが原因で、次に使う人が壊したことになってしまう。でも、実際には前に使った人が原因で起こります。箱へのしまい方や箱からの出し方を見ていると、その方の雑さがわかります。そういう態度は、普段の生活にも出てきます。農薬散布は長期間泊まりがけでやりますが、共同生活をしている間に靴が並べられないとか、水回りがビショビショのまま放置するとか、そういうところでその方の姿勢が見えてきます。そのときには気付いてもらえるような声がけをしています

今までのキャリアをドローンにつなげてほしい

ーーところで現場を教えることで嬉しかったことは

嬉しいことだらけです。卒業生が卒業後に活躍している報告を聞くと、役に立てたと感じることができて嬉しいです。また最初のうちは全然うまく操縦できなかった方が、合格するまでに腕を上げるなどご本人の努力を感じられることも嬉しいです。卒業してから手伝って欲しいと声をかけてもらうのも、頼ってもらえて嬉しいです。入学当初、厳しい表情をしていた方たちが、卒業時には、みんなニコニコ笑顔で修了書を受け取っている姿を見るのも嬉しいですね。受講生に『あなたにとっての仕事ってなんですか』と質問することがありますが、私にとっては『誰かの役に立てていますか』ということなんです。自分のやっていることが誰かの役に立っていれば自分の存在意義を感じられます。将来的には収入にもつながります。JUIDAスクールも役に立てているという実感があるからここまで続けてこられました

ーー2022年12月に改正航空法が施行されレベル4が制度上解禁されました。国家資格の取得を目指している方にメッセージはありますか

今後、国家資格が広がっていくと、取得そのものが目的になる恐れがあります。しかしそれだと、国家資格を取ってもそれだけではそのあと何もできません。免許がなくても今まで通り申請すれば飛ばすことは可能です。スクールを選ぶ場合には、免許があってもなくても『こういうことができるようになる』という方向が明確なスクールを選んで欲しいです

ーー本来の目的は何か。ものごとを考える順番は大切ですね。

順番を考えるうえでは、カメラマンの経験が生きている部分があります。難解なプロジェクトをどうやったらできるか、チームで考えて達成するという経験を積み重ねてきましたので。これからドローンを始める方には、今までやってきたキャリアをゼロにするのではなく、経験を活かしてドローンにつなげてください、と話をしています。ドローンは道具の一つではありますが、操縦できるようになったからといって仕事に直結するとは限りません。例えば、最新式の工具を買ったからといって、大工になれるわけではないですし、調理師学校に通って卒業したからといってすぐに行列ができる料理人になれるわけではありません。なれる可能性はある、だけどドローンスクールを卒業したからといって、すぐに何かが出来る訳ではありません。プロになるための『1万時間の法則』(『天才!成功する人々の法則』マルコム・グラッドウェル<講談社、2009年>)だと、平日8時間働いて5年くらいになりますが、実務のノウハウを学ぶ時間も必要で、卒業後の過程が大事なんですよという話をしています

向かい風あっての揚力

――つまずくかもしれない、と不安な人もいます

ドローンに限らず新しいことを始めると、必ず壁にぶち当たります。飛行機の離陸に例えると、自分の力で進み始めるのが推力、そこから更に進んでいくと揚力で飛ぶことができますが、それには向かい風が必要です。新しいことに進み始めた方の中には、邪魔が入ったり、妨害があったりすると、すぐに止めてしまう方がいますがなぜ、そこでやめてしまうのでしょう?向かい風が来たら離陸できて、さらに頑張れば先に進めます。是非、向かい風に負けず頑張っていただきたいです

ーー 最後にこれからの抱負をお聞かせください

これからは飛ばしたい方をサポートする側、チームでいうと監督、コーチ側のポジションで、選手たちが思いっきりプレーできる環境を作ったり、お手伝いをしたりする方向がいいんじゃないかと思っています

ーー これからが楽しみです。ありがとうございました

<インタビュー/村山繁>

山﨑 英紀(やまざき ひでき)

合同会社 ざきやま 代表社員
日本ドローンアカデミー講師
プロテレビカメラマン
一般社団法人 無人航空機災害時支援協力事業体 代表理事

テレビカメラマンを経てドローンの世界へ。日本ドローンアカデミーで講師として活躍する傍ら、一般社団法人 無人航空機災害時支援協力事業体の代表理事、一般社団法人 Japan Innovation Challenge理事として、「ドローンによる夜間の捜索支援サービス・NIGHT HAWKS」の隊長として1年の約半分を北海道上士幌町で過ごす。『めざましテレビ』スクープ大賞の受賞歴、ドローン レース国際大会元日本代表(2016年@ドバイ)など、まさにドローン名人として幅広く活躍中。