第5回:依田健一さん/Dアカデミー株式会社代表/Dアカデミーアライアンス代表/ドローンスクールメイン講師

伝えているのは、幸せになるための方法

儲けより参加者の学びたいことがピンポイントで学べることを優先

ーー 依田さんのお名前はドローンの専門家同士の話の中でもよく登場しますので、幅広くご活躍されてる印象をお持ちの方も多いと思います。現在の中心的なお仕事を教えてください。

メインはドローンスクールの運営と講師です。Dアカデミー株式会社の代表として、スクールの運営をしています。ほかに機体を開発したり、用途にあわせて機体をカスタマイズしたり、時には大手企業などと共に点検や測量の仕事をしたりもしています。軸となっているのはJUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会)の認定スクールであるDアカデミーの運営です。

ーー Dアカデミーの内容を教えてください

スクールの主軸はJUIDAのカリキュラムに基づく4日間コースです。「i-construction(=アイコンストラクション※)コース」と言って、いわゆる空中写真測量を学ぶコースです。一般の方にとってドローンの使い方のイメージは、「空からきれいな写真や動画が撮れる」だと思いますが、私は建設に向けた用途に特化した使い方を指導するカリキュラムを開校当初からぶれずにやってきました。その中の一つが測量です。「空中写真測量」、「測量」と言うと難しく感じるかもしれませんが、物を測ったり、線を引いたりといった、日常でもしている作業をドローンで建設向けに活用することとお考えいただければよいかと思います。例えば、避難経路の距離を測ったり、お客様が来る時にパイロンを置くのに何メートルあるから何個いる、などを算出したり。皆さんが日常的にやっていることをドローンで簡単にできますよと教えています。

―― 一般向けに建設現場で活用する方法を教えておられるのですね

ただ、中にはすでに、i-constructionをやっているゼネコン、測量、コンサルの方も来られます。そういう方には、かなり突っ込んだ深いお話もさせていただきます。一般向けとしては、ドローンで簡単に物が測れますよ、屋根点検だと屋根の寸法も簡単に測れますよと、教えているのがメインの4日間のコースなのです。当スクールでは受講クラスの人数は平均3.2人なんです。6人集まると多すぎてアップアップしています。平均3.2人ということは、下手をしたら1人の時もありますが、それでもやります。相手のことを考えると、ドローンで何をやりたいのか、何が目的なのかが私としては重要な部分です。ドローンスクールを始める前に、学びたいことが測量なのか、点検なのか、害獣調査なのか、人によって異なりますので、何を学びたいのかを一人ひとりに伺って、その中で中心点を見つけ、それに基づいてお教えするのが当スクールのパターンです。これが10人20人になると中心点が広がってしまい、参加者の目的に寄り添えないので、やりません。経営の観点では、参加者が多い方が儲けは増えるのですが、そこは求めていません。参加される方がピンポイントで学びたいことを学べるスクールの内容にしています。その他に、建物を赤外線で調査する「赤外線コース」もあります。最近は、業務用ドローンを買っても機能が多くてわからない、とおっしゃる方も多いので、そのサポートをしたり、企業様に伺って、例えばソーラーパネルの点検手法を教えたり、といったこともしています。

ーー 相手のためにどれだけお役に立てるかという視点で考えていらっしゃるのですね。全てのビジネスに通用すると思うのですが、「相手のために」というのは依田さんにとって大切なことですか?

はい。とても大切です。私は生コン事業を経営してきたので、経営者の考え方として培ってきた中で一番大切なことが「お客様に喜んでいただくこと」なんです。では、喜んでいただくにはどうしたらいいか? 私はお客さまに儲けていただくことなのかなと思っています。その辺りが私のビジネスの基本になっています。うちのスクールは高いです。一切値引きもしません。でも、絶対に来ていただいた価値以上の元は取れるし、利益を出して儲けてもらう。そうすると、その方はまた私を指名してくれる。利益は後からついてくると思っているので、自分の利益先行でものごとを考えず、相手に喜んでいただいて利益を得ていただくのが、私の事業をやる上での基本になっています。

悠々自適より大切なものを求めて起業

ーー Dアカデミーを展開してきて、よかったと思うことを教えてください。

ドローンスクールをはじめた経緯についてお話させてください。私はもともと生コン事業をやっていました。特許を取ったり、誰もやらないことをやったりしていたので業績もよかったのですが、跡取り問題があって事業を営業譲渡したのです。そのため、50歳でセミリタイア状態になりました。仕事をせずに暮らせることは楽しいだろうと思っていたのですが、仕事を辞めると人間関係が疎遠になって、ただただ過ぎていく日々に果たしてそれが幸せなのかどうか、と考えることが増えました。仕事があって、仲間がいて、大変なことがあって、それを乗り越えて…。そういうことが大切なのだと気づきました。そんなことがあってドローンスクールを作ったんです。自分で起業してやっていきたいと始めたドローンスクールなので、理想のドローンスクールを作りたい。理想ってどういうことかというと、皆さんに儲けてもらって喜んでもらって、利益は後からついてきたらいいや、ということです。

ーー Dアカデミーは全国に浸透しています

全国にドローンスクールを広げようと思ったら、普通はフランチャイズなんですけど、私はお金には全然固執していないので、アライアンスという形を取りました。アライアンスは共同企業体なので、誰が上とか下とか関係なく、全員が同じ立場なんです。私の思いを一緒にやってくれる人に対して暖簾分けをして14校まで広がりました。皆さんそれぞれが同じ立場で、頑張って自分の強みを活かしているスクールが全国に14校できたのは大きいと思っています。たくさんの方がアライアンスに入りたいと来られますが、大抵はお断りしています。広げて大きくすることそのものが目的ではないのです。本当に私の気持ちを尊重して、一緒にやってくれる仲間を求めています。

ーー Dアカデミーの他のメンバーの皆さんや卒業生の方も、お話をすると「相手のためになるように」と話をされています。その原点を伺いました。ところで、生コンの会社を経営されてきた依田さんの経歴とドローンとの繋がりは何だったのでしょうか?

実は私は婿で、結婚して妻の実家の生コン屋さんになったんです。私も必死に働いたので業績が上がりいい形で経営が出来ていたと思います。でもそれは先代が築いてきた土台があったからこそで、たまたま運が良くて結果を出せたのかもしれない。だから、自分でも一から会社を起こせるというのを証明したくなった。でも、私はわがままなので社員は雇いたくなくて。取柄と言ってはなんですが、私は小学校3年生からラジコン飛行機をやっていて、当時私の年齢でラジコン飛行機を飛ばしている人はほとんどいなかったんです。起業を考えていた当時、ラジコン倶楽部でドローンみたいなもの、マルチコプターが流行っていたんです。自分で組み立ててパソコンでスイッチをセッティングして飛ばすんです。自動で帰って来たり、ホバリングしたり。最初は全然興味がなくて冷ややかな目で見ていたんですけど、少しやらせてもらった時に自動帰還に感動して。それにカメラを搭載して撮影すると、すごくきれいな絵が撮れる。それから趣味で空撮をして、友達のソーラーパネルを撮ってあげると、とても喜んでもらえた。それでドローンに興味を持ったんです。建設業をやっていたのでゼネコンのお客さんはいっぱいいるし、建物や構造体、コンクリートなどを勉強していたので、これまでの経験も生かせそうです。そこで、これで起業しようと思ったんですね。そこから、機材を買って、一眼レフとR500 という赤外線サーモグラフィカメラを搭載した高性能のドローンを自分でカスタマイズして、団地やゼネコン向けのサービスを始めました。でも、それを事業としてやっていくと、人を雇わないという最初の目標が難しくなってきたので、自分で事業をするのではなく、スクールを開校し、そのノウハウを教えることになりました。そうしてJUIDA認定ドローンスクール東京1号店になったのが経緯です。

ーー 様々なドローンを飛ばす目的に沿ったものを提供するために、どのように対応されていますか?

これはうちのスクールに来られた時に、最初に皆さんにお話することなんですけど、私はドローンを飛ばすだけというのはそれほど難しいと思っていません。操縦そのものは技術ではないと思っています。そこを学びたい方には、「あなたの目的だったらうちは高いし目的に合っていないですよ」とお断りします。私はまず入口の所で選別をします。必ず事前に連絡をして、何をしたいのかを聞いておきます。もちろん基本的な操作は教えます。でもドローンを飛ばすことを意識していません。安全に飛行させるための操作を念頭においていますし、自動航行や、やりたいことを実現するための方法、ドローン操縦ではなく成果物を出すための撮影方法、ドローンの運用方法を教えることを目的としています。だから目的をちゃんと聞かないと、点検をやりたい方に測量の話をしても響かないので、それぞれが響く形に内容をリメイクして提供しています。

ドローンは何かを持ち上げ、運び、撮影する道具。大事なのはその「何か」

ーー 依田さんのスクールには、どんな方にお越しいただきたいですか?

私はカメラのことは全く知らないし、絵心もない、センスもないので、空撮系をガッツリやりたいという方は、基本的にうちは向いていないです。私の得意分野は、建設系なので、そこをターゲットにしています。だから、建設系に関わることがやりたくて、なおかつドローンで何をやりたいか明確な方がうちとしては望ましいです。ただ、何がやりたいか目的が明確でなくても、お話を聞いていくことによって考えが整理されてターゲットが絞られてくることもあります。ドローンで何ができるのか、何をしたいのかがわからないという方には授業で補っていきます。スクールの4日間で、霧が晴れたようにモヤモヤが無くなるだけでも大切ですね。受講生から本当によく言われることのひとつが、「依田さんのところはスクールに来ているというより、コンサルタントに来ているみたい」ということです。色々なことに対して、良い所悪い所、収益性があるかないかなど、はっきり意見を言ってしまいますので、そんなことから言われるのかもしれません。

ーー 例えば?

橋梁点検に参入したい方がいらしたとします。この分野にはすでに確立された点検手法があるので、その中にどうやれば参入するかといったら、値段を安くするか、強いコネを使うかして入っていくのが一般的です。でもそれはとても大変です。それなら、今ある仕事をドローンと組み合わせることで、こんな新しいビジネスが生まれたとなると、それはプライスリーダーになれます。だから、既存のものを追いかけるだけではなくて、2面で考えませんか、などとお伝えしています。ドローンはこれからの事業だと思うんです。ドローンは何かを持ち上げる、運ぶ、落とす、撮影する…そういう道具なんです。その「何か」が大事なんです。そういうことを話していく中で、だんだん皆さんが頭の中で想像されたり、これまでの経験や人脈が明確になっていったりするんですね。一つの例として、電柱に上って電線を修理される企業さんで「下から照らす明かりはあるけど上から照らす明かりも欲しいよね」って話になった時に、「ドローンだと上から明かりを付けられるし、給電すれば10時間でも付けられますよ」って話をしたら、ものすごく喜んでいただけた。たわいもない話の中からドローンと組み合わせたらこんなことができるんじゃない?っていうアイディアは生まれてくると思います。アイディアはいくらでもさしあげますから、皆さんどうぞやってみてください。とお伝えしています。

やる人とやらない人の違いはひとつだけ

ーー 多くの生徒を育ててきて、どんな時が一番嬉しいですか?

多くの卒業生が第一線で活躍しています。その活躍している姿を見ることが一番嬉しいです。だから、「せっかく私と知り合ったんだからドローンのことでわからないことがあれば何でも依田に聞け。私を頼れ。私をいっぱい使った方が費用対効果は上がる」って話をしています。結果として、その方が活躍している姿を見られたら、私にとってはこの上なく嬉しいことです。

ーー 卒業後も相談に乗ってもらえるのは、受講生にとっては心強い。質の高い質問をする人はその後で生かす確率も高いですね。

そうですね。やる人、やらない人の違いは1個だけです。やらない人はやらない理由を探す。そういう人は結局やらない。やる人はどうやったらやれるかを考える。やる人はすぐに行動するし、やるための努力をする。この辺はドローンスクールだけではなく、全てに言えることだと思いますね。今サービスがなくてできないことも、あきらめてしまうのか、工夫をしてやれる方法を探すのか。マザー・テレサの言葉だったかな?「暗いと不平をいうよりも、進んであかりをつけましょう」ですよ。不平不満を言うのなら、自分で改善していきましょうよという話です。

ーー 千葉県君津市で広大なドローンフィールド「DDFF」を運営しておられますがその意味は?

ドローンスクールを運営するに当たって、将来的にはドローンを飛ばすだけではなく、そこで点検業務や、ジョブサイドでは危険でできないこと、例えば、こういうことをすれば墜落する、こういうことをすれば当たってしまうといった無茶なことを安全に試すことができる広いフィールドが欲しいと思っていました。たまたまあのフィールドの持ち主を知っていたので、ドローンフィールドとして運営させてくれとお借りしています。建物点検がメインなんですが、点検用ソーラーパネル、点検用トンネル、点検用擁壁、疑似橋など、頭の中で描いている構想があります。大きな構想なので少しずつ実現しています。今、実現しているのが、土量計算用の土の山が1000立米、点検用のソーラーパネル、外壁点検用のタイルが浮いているようなもの。今後、橋やトンネルも増やす予定です。最終目標は、そこでi-constructionのすべてをやることです。私たちは3年前からすでに某所にてi-construction研修をやっています。起工測量から出来高までのi-constructionの全てを1週間かけてやっています。某所での1週間というのは缶詰めになります。現場で働いている方が学ぶにはハードルが高いので、君津で最終的には単位制で学べるようにしたいと思っています。i-constructionは地方では進んできているけど、首都圏ではまだ普及していません。今後、必ずドローンと組み合わせる必要が出てきますので、i-constructionのすべてや、橋梁点検、ソーラー点検が学べ、疑似体験もできて、色んな危険も体験できる、そういうフィールドにしていくのが、最初に立ち上げたときから描いている完成予想図です。

ーー i-constructionの知識は提供されているけど、具体的に経験できる場所がないですね。

練習する場がないんですよ。ジョブサイド、現場ではできないことなので。

ーー 依田さんの目から見て、スキルが身に付きやすい人、身につきにくい人があれば教えてください。

私の持論なので正しいかはわかりませんが、端的に言うと「腹を括るか、括らないか」だと思います。もちろんサラリーマンも大変だけど、会社に行っていれば毎月決まったお金をもらえる。頑張ったら頑張っただけではないけど、そこそこ生活はできる。起業したい、ドローンで仕事をしたい人に対して私から一言アドバイスをすると、起業って結構大変です。毎年毎年、生き残る中に入っていくのは大変だし、お金が儲からなければ、資金ショートもします。努力もだけど一番大切なのは腹を括ることだと思いますね。腹を括ればなんでもできる気はします。不安なことを考えたり、プラスとかマイナスとかを天秤にかけて比べていたりすると動けなくなってしまう。そんなことを超えて「やる」という気概があるかどうかではないかと思います。

ーー 4日間のコースで、成果を出すために依田さんがする工夫とは?

目的が違う人が来ますので、その目的に合わせて内容が変化します。例えばラーメンを提供するのは変わらないんですけど、味付けが醤油味か、みそ味か、麺が硬めか、普通か、そういう違いはありますね。卒業した後が一番大切だと思っているので、無料開放であったり、必要があればスクールのフライトに混ざってもらったり、会社に行って企画に加わったり、大手企業だと技術顧問として関わったりもします。リクエストがあれば私は断らないので、出来る範囲でお答えします。

ーー 無料開放はすごいですね。卒業した後も伴走されてるんですね。最後に、依田さんのようになりたいという方にメッセージをお願いします。

うーん、一番難しいですね(しばらく考える)。私は自分では本当に何もできない人間なんです。できるふりをしていたりすると、周りの方がとにかく助けてくれるんです。妻にも「あなた自分で何もやらないくせに、なんで人からそんなに賞賛されるの?」って言われるんです。そのときは「それが私の勝ちパターン!」って言っています。私は多分、人よりものすごく秀でている部分がないので、だからこそ周りの方に助けてもらっているのかなと思います。でも、私は調子がいいので(笑)「なんでもやります!」って受けるんです。受けてから、この件はこの人に、あの件はあの人に…、とお願いしています。周りに協力してくれる方がいて助けてもらってやっている。これも一つのパターンで、何かに秀でていなくても、何かに長けていなくても、周りに助けてもらうのも有りなんだと思っていただければいいのかな。よくあるのが、「はい」って引き受けた後にどうしようと考えること。「できません」って言うの、嫌なんですよ。自分を頼ってきた方に断るのが申し訳なくて。たとえ自分ができなくても、誰かできる方にお願いすれば助けてあげられるのではないか、って考えてしまうんです。なんとか力になりたいんです。そうやって、いつも周りに助けてもらっています。

ーー 私も頼らせていただきます。ありがとうございました。

※i-construction:
国土交通省では、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めています。
国土交通省ウェブサイト(外部リンク):https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/

<インタビュー/村山繁>

Dアカデミー株式会社代表/Dアカデミーアライアンス代表
DアカデミーJUIDA・UTC認定スクール メイン講師 

依田 健一 (よだ けんいち)

国交省主催EE東北全国UAV競技会優勝チームリーダー。
ラジコン歴40年。
点検業務でも大型機を飛ばし機体のカスタムも行い実機も操縦する。