第11回:佐々木 桃子さん 株式会社ジュンテクノサービス 取締役/ドローンスクールDアカデミー関東埼玉校講師

夢はプロのディスパッチャー

カメラが空を飛んでいる?!その衝撃を誰かに伝えたい

ーー 読者のみなさまに自己紹介をお願いします

名前は佐々木桃子です。『ササモモ』と呼んでいただいています。株式会社ジュンテクノサービス(埼玉県川越市)の取締役として空のドローンと水のドローンを使った事業を主軸に活動しています。役員をやりながら現場にも出かけます。現場では主に安全運航管理の担当で、現場を守る責任者の立場です。新規開拓営業もしています。

ーー 空のドローンがこの仕事を始められたきっかけでしたね

2015年にはじめてドローンを知ったときは衝撃でした。『カメラが空を飛ぶ?これは一体、何なんだ?』って。この衝撃を伝えたくてSNSを始めました。情報を集める中でJUIDAの存在を知り、JUIDAのスクールに通って、2016年7月1日に会員になりました。その頃はドローンそのものよりドローンを知った感動、衝撃を伝えたい思いが大きかったと思います。

ーー 確かもともと機械が好きなんですよね?

パソコン、カメラなどの機械類、電機製品が大好きです。ドローンに出合う前は、パソコン教室の先生をしていました。知識がゼロの受講生に私の知っていることを教えることが好きでしたのでドローンを知ったときの衝撃も、パソコン教室で教えていたように教えたい、伝えたい、という思いがあったと思います。

ーー そんなときにJUIDAの会員になりました

とにかくドローンについて情報を得たかったんです。当時は、情報が少なかったので、私の中ではJUIDAは希望の光でした。

ーー ドローンを趣味にするのか、仕事にするのか、選択肢があったと思います

私は最初から自分で仕事にしたいと思っていました。スクールに入った時に、身銭をはたいて入ったので、これで食べていくぞ、とかなり気合を入れて臨みました。どんな仕事か、となるとそこははっきりしていなくて、どんな仕事があるのか教えてくれる人がまわりにいたわけでもなかったので、とにかく自分で前に出ていくことを心掛けました。そうすれば、誰かが情報をくれるだろう、と考えました。その情報を足掛かりに、仕事をしていこうと思っていました。

ーー SNSで伝えたかった衝撃とは?

真っ先にあったのは、地面にいながら空からの景色が見られることです。自分の足が地面に着いたままでは、本来なら見られないはずの場所を見ることができることに感動して、衝撃を受けました。2016年2月16日にブログ、SNSを一気に開設して、その日からJUIDAの認定スクールに通ったことや、DJI製ドローンの操縦者育成プログラムのDJI CAMPを受講したことなど、自分がやってきたことを日記代わりにどんどん発信しました。発信が大事だと思っていたので、とにかく発信していました。

ーー 発信のときに心がけていたことは?

大きくはふたつあります。パソコン教室で教えていたときには、事前に何も知らない、もともとの知識がゼロの方を対象にしていましたので、電源って何ですか、っていうところから説明して、分かってもらって、楽しんでもらえるように伝えました。この考え方をドローンでも大事にしました。第一に、事前に知識がない人にもわかるような伝え方をすること、第二に、ネガティブにとらえず前向きに伝えることと、誰かの活動の妨げになる話や邪魔する話をしないこと。ここを心掛けました。

ーー 発信をはじめて変化はありましたか?

ありました。今、自分の宝となっている人に出会えたことです。私より先陣を切っておられた方々や共感できる方々に出合えました。ドローンレースのお手伝いをブログや動画で発信したことが、ザキヤマさん(第9回:山﨑英紀さん)と出会うきっかけになりました。地域の魅力発信をやっていた時期には田口先生(第3回:田口 厚さん)と出会いました。スクールを始める時には依田さん(第5回:依田健一さん)に出会っていますし、kimmyさん(第2回:阪口公恵さん)もそのころに会いました。重要な人物に出会えたことは私の中ではとても大きいことです。

声をかけられる準備ができているか

ーー 発信で大事な縁を築いたご経験は多くの読者のヒントになりそうです

 実は、目的にもよるかもしれませんが、発信さえすればよいという話ではない気もしています。

ーー といいますと?

私はスクール講師として多くの卒業生を見送ってきたのですが、その中で分かったことのひとつに、卒業後にドローンを仕事にできる方とできない方との違いがあります。仕事にできる方は連絡が途切れないんです。どの業界、どの世界にも、知見をお持ちで仕事が集まる方、仕事を作られる方がいらっしゃると思いますが、ドローンも同じです。仕事にしたい場合、そういった方のそばにいて知見を習得したり、一緒に仕事をする機会を獲得したりすることは有力な方法のひとつです。でも、ドローンでは仕事が集まるすごい人の近くに常にいる方は、全体の1%にも満たないのが現状です。すごい人に、一緒に仕事をしようと思ってもらうには、一緒に時間を過ごしたり、コミュニティの中にいたりと、声がかけられる状況、連絡がとれる状況に自分を置くことが大切です。私の場合はSNSでドローンの感動や衝撃を発信したわけですが、ドローンを仕事にすると決めていましたので、お手伝いをして声をかけられる場所にいることや、見られる場所にいることを心掛けました。その縁でザキヤマさんについて回るなど、コミュニティの住人で居続ける努力をしていました。

ーー 目的にあった方法かどうか点検が必要なようですね

もしも仕事にしたい、などの目的や希望をお持ちなら、まずご自身がどんなお仕事を望んでいらっしゃるのかを明確にされてみるとよいと思います。ドローンにも映像を撮影するほかに多くの用途があります。お望みのお仕事についておられるすごい人の近くにいるためにどうするか、その人から仕事のお誘いを受けるためにどうするかといったことが大事なのだと思います。それはSNSで発信するかどうかとは別の、声をかけられる準備ができているかどうかだと思います。先ほども話したように、声をかけやすいポジションにいる方は意外と少ないので、やれば声を掛けられるチャンスは大きいと思います。要はやるかやらないかだと思います。

さらなる高みを目指し、個からチームへ

ーー ドローンに出会ってからこれまでの7年間の変化とは?

私に関していえば、当時と今とで大きく変わったことはただ一つ。個からチームになったことです。当時は個人で戦っていましたが、今はチームで戦っています。2016年にSNSをスタートし、ササモモというキャラクターが生まれ、個人でのし上がっていこうとした時代が2、3年続きます。そこで個人で伝えられることの限界を知り、新しい女子の団体を作って、グループで全国にドローンを広めていく活動をしていました。結果、全国の子供から大人まで知っていただくことができたと思っています。そこからさらに目線を上げ、産業用途としてドローンを扱う場合に、自分の役割がどこにあるのかを考えました。それを見据えたときに一時、また個に戻るのかとも思いましたが、一緒にやっていくパートナーが出来、法人を立ち上げることになりました。これはとても大きな変化ですね。

ーー どんなチームですか?

はじめにお話しましたが、ジュンテクノサービスという会社です。今は6人の会社です。一人ひとりの役割が与えられています。私は新規開拓営業もやっているので、伝える相手が個人から法人に変わりました。

ーー チームになってからできるようになったことは?

個人の場合は、新規営業から商品提供のクローズまで、一通り自分でやらなければならないので、クオリティを上げるためには、どうしても自分のペースの範囲で仕事をすることになります。チームになってからは各々の役割があるので、オペレーター、安全運航管理など分担できますので、個人ではできなかった規模の仕事を引き受けられるようになりました。例えば、建設業では500万以上の受注を請け負うとき、建設業の許可(※1)が必要です。個人では受注できることではないので、そういう時に自分の中で成長を感じます。法人だから受注できる仕事もあります。ドローンの楽しみ方はいろいろですが、私はチームでやった方が面白いと思っています。

ーー 伝え方について、相手が個人の場合と法人の場合とでは違いますか?

相手が個人の場合は、早くドローンを始めてもらいたいという思いがあるので、楽しそう、これがあったら何かできるかもしれない、と次のステップを想像させることが重要だと思っています。ワクワク感を持たせたいので、『早くこっちの世界を見てみて』というアプローチを続けています。

ーー それで引き込まれた個人を多く知っていますよ。では法人の場合はいかがでしょうか?

新規開拓営業の現場などでは、水中ドローンも含めてドローンを導入するメリットを織り込んだ提案をしていますが、そこで心掛けていることは、相手との信頼を最優先にすることです。収益度外視、ということではなく、信頼を重視することと収益とは同じことだと考えています。信頼を築かないと収益もついてきません。具体的にしていることは、ドローンにできることだけでなく、できないこともきちんと伝えることです。できないことを隠して契約にこぎつける、といったことは絶対にしません。腹を割って正直にできること、できないことを伝えています。あとになって取引先が不利益を感じては、そのあとの関係も悪化するかもしれません。ひとつの取引をした後も、その関係が続けられるよう心がけています。

 ーー チームでは新規開拓の担当ですね

はい。新規開拓営業ではまず私が相手企業にご提案に伺います。その後われわれの現場の担当者や社長の技術面もご覧いただきます。いいところも悪いところもお見せして、相手企業に私だけでなくほかの担当者も含めて評価をいただきます。その中で、ここにお願いしたら安心だ、ジュンテクノサービスはいい会社だ、とお付き合いいただける企業が増えてきました。

ーー そのときに大事にしていることは?

相手が何をお望みなのか、期待を超える提案ができるかどうか、どうすれば与えられたハードルをより大きく超えられるか、を常に考えています。以前、「ジュンテクノサービスにお願いするのには理由があります。言ったことに対して臨機応変に、迅速に対応してくれるところです」と評価いただいたことがあります。臨機応変に対応できるのは、チームのメンバー同士が信頼しあえているからだと思います。

ーー チーム内の信頼を土台に、相手の期待を超える方法を考えているのですね

信頼でいえば、ややこしい上下関係のせいで無駄な忖度や気遣いを強いられる話を耳にしたことがありますが、うちのチームにはそれがありません。危険な時は危険だとはっきり言います。航空機もそうですが、安全面では上下関係は関係なく、事故にならない、ゼロ災であることが一番重要です。正しいと思ったことを言えるタイプの人と言えないタイプの人がいると思います。オペレーターの気質としては、はっきり言えるかどうかが重要だと思っています。その答えが正解か間違いかよりも思ったことをまずは伝えて、みんなで意見を出し合うことが重要だと思います。

裏で支える仕事に光をあてる

ーー ササモモさんの活動スタイルはこの間に変遷してきましたが今後はどうですか?

私、今やりたいことがあるんです。これは個人の活動からチームで仕事をしていくようになる中で、感じたことです。それはドローンを扱う仕事として、チーム全員がプロのパイロットにならなくてもいいということです。最初はパイロットを目指すことでよいとも思うのですが、私はパイロットも経験し、その楽しさも知った上で、今は安全運航管理にやりがいを感じています。周囲の安全を確実に守ることに誇りを持っているので、最終的に航空業界でのディスパッチャー(航空機運航管理者)になることが今の私の目標です。『安全運航管理』という裏で支える人、そういうチームを作ることがすごく面白いと思っているので、私はプロのディスパッチャーになりたいです。

ーー プロディスパッチャーのお仕事のイメージは?

電波も風も肉眼では見えないのですが、でも、見えるんです。見えたものを口に出して人に伝えるのがすごく楽しい。「10分後に雨が降りますよ」など、そういうアシストをする。安全により近づけるのにはどうしたらいいのかを伝える作業、そこで役に立つ人になりたいです。

ーー 裏方と言われてきた仕事に光を当てることになりそうです

今後、レベル4の飛行が当たり前になってくるとドローンの運航はますます操縦士個人だけの仕事ではなくなります。チームを組んで安全に運航していかなければならないので、ディスパッチャーの役割は大切になってきます。私はこのディスパッチャーという仕事に光をあて、表に出ようと思っています。

ーー また新しい波を起こしそうです。この間のドローン周辺の変化をどう見てますか

ドローンで撮影した映像を見ない日がなくなりました。これはすごく大きいですね。ドローンが当たり前になったのだと感じます。

 ーー ササモモさんも立役者です

私のおかげです(笑)冗談はさておき、ドローンという言葉がこの7年で日常的に使われるようになって、実証実験が毎日のようにテレビや新聞で報道され、産業用途としてのドローンの認知が広がったことは素晴らしい変化だと思います。

ーー 一方で足りないと思うことはありますか。

ドローンのマーケットとしてはまだ成熟していないと思います。色々な業種の方がドローンに関わっていますが、まだ十分に多くの業種に広がってはいないことが大きいと思います。ビジネスの観点でドローンを扱う方、ドローンの産業が発展する視野をもった業種の方がもっと集まることで、これからも成長すると思います。たとえばグローバル展開を視野に入れることが重要になりそうです。その展望を示せば人材の流入を促すことにもつながります。

ーー 人材という意味では、スクール講師の話にも触れておられました

地域でドローン人材を増やしたいという思いで始めました。スクールのDアカデミーアライアンスグループは土木建設に特化しているので、校舎によってはi-Construction(アイ・コンストラクション※2)の過程における無人航空機の活用方法について教えており、専門技量を身に付けたい方が集まります。企業から派遣されて来られる方が多く、3、4人のチームで受講されるので、そのチームの結束力を高める教え方をしています。パイロット、補助者とそれぞれに役割があるので、役割が変わった時に、こういう反応をしなければならない、ということを実技の時間で必ず教えます。受講生はカリキュラムが豊富なので、自分で情報を集めるよりも、講習の4日間で必要な情報が一通り得られるので満足度は高いように感じます。

ーー 最後に、ササモモさんみたいになりたいという方にアドバイスをお願いします

とにかくやれ、です。何かをやりたいと思ったら、あれこれ考えすぎず、すぐに行動に移すことが大切だと思います。考え始めて、辞めようと思う理由が1個あれば人間は辞められてしまいます。それを作らないこと、それを考えないことが重要です。私も誰かから言われて意識が変わったので、みなさんにも出来ると思います。

ーー ありがとうございました

<インタビュー/村山繁>

※1
建設業の許可:
 建設工事の完成を請け負うことを営業するには、その工事が公共工事であるか民間工事であるかを問わず、建設業法第3条に基づき建設業の許可を受けなければなりません。
 ただし、「軽微な建設工事」のみを請け負って営業する場合には、必ずしも建設業の許可を受けなくてもよいこととされています。

国土交通省ウェブサイト(外部リンク):https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000080.html

※2
i-construction:
国土交通省では、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めています。

国土交通省ウェブサイト(外部リンク):https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/

佐々木 桃子(ささき ももこ) 

株式会社ジュンテクノサービス 取締役
ドローンスクールDアカデミー関東埼玉校講師

2015年、専業主婦からドローンパイロットをめざし、翌年個人で事業を開始。2019年までドローン普及のため全国でドローン操縦体験を実施。現在は株式会社ジュンテクノサービス取締役を務め、空撮、水中インフラ構造物の点検調査を軸に国内全国各地を飛び回る。
SNSを巧みに使いこなし、ニュースや特集でドローンの魅力を発信し続け、動画配信、ブロガーとしての事業を営むなど、マルチな方面で活躍中。

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