第12回 前場洋人さん Dアカデミー関東本部ドローンスクール講師 / ドローン・エンジニアリング・パイロット / 一等無人航空機操縦士

人と現場が好きで気が付けば初の「一等無人航空機操縦士」

JUIDAも一等操縦士もドローン・ジャパンも「はじまりは縁」

ーー読者のみなさまに向けて自己紹介をお願いします。

 「前場洋人(まえばひろと)です。私の経歴ですが、専門学校の電気工学科を卒業した後、火力発電所で電気設備の職人を5年ほどしていました。その後、父親の友人が経営している映像制作会社でビデオエンジニアの募集をしていると聞き、おもしろそうだと思い転職をしました。そこで5年ほど勤めた頃、今度は注文住宅の設計・施行の会社を経営している父親からスタッフが足りないから来いと言われまして二度目の転職をすることになりました。ただ、その間も映像の世界への興味は強かったので、建築業の傍ら、かつての映像仲間の仕事も手伝っていました。その頃にドローンが出始めて、会社のプロモーション用の空撮で初めてドローンを使いました。今から9年位前のことですね」

――キャリアの幅が広いですね

 「そうですね。父の会社で建築業に12年携わっていましたが、映像の世界でドローンを本格的にやりたいと思い、独立することにしました。空撮だけでやっていける自信がなかったので、建築の現場監督の請負や電気工事の手伝いなども受けながら、空撮の仕事を始めました。その頃、地元のドローン撮影チームである藤沢航空撮影隊(神奈川県藤沢市)が地場産業の展示会にブースを出す事を知り、それを見に出かけたところ下田さん(下田亮・藤沢航空撮影隊代表)、依田さん(依田健一Dアカデミー代表、第5回に登場)ほか、ドローンで名の知れた方々と知り合うことができました。ドローンの空撮はチームで進めるプロジェクトであることもあり、こうしてできた仲間同士でお互いに仕事の融通をしたり協力しあったりしていました」

――縁がキャリアの幅を広げている印象です

「つくづく恵まれていると実感しています。はじまりはすべて縁かもしれません。JUIDAが発足したころ、依田さんからインストラクターにならないかとの誘いを受けて、一緒にJUIDAの資格を取って、JUIDAスクールのインストラクターになりました。4年前にはドローン・ジャパン株式会社(東京都千代田区)が株式会社ACSL(東京都江戸川区)向けのテストパイロットの募集をしていたので、腕試しで受けてみたところ運よく合格し、そこからドローン・ジャパンとしての業務も請け負うことになりました。3年前からは日本郵便株式会社(東京都千代田区)が東京・奥多摩で行ってきた実証実験に、毎年、呼んでいただいています。日本郵便が三重県熊野市で行った実用を見据えた実証実験にも参加させていただきました」

――そんな中「一等無人航空機操縦士」の、最初の取得者の一人になりました

 「交付は今年(2023年)2月14日でした。私を含めてドローン・ジャパンに関わる4人が一等操縦士を取ったのですが、この4人がご指名をいただいて、2023年3月24日に日本郵便による日本初のレベル4飛行の運航をさせていただきました。レベル4飛行の運航につながった奥多摩での実証実験の現場には様々な企業の方が招かれていました。その中に株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区)の方もいらっしゃいました。エアロネクストは奥多摩の隣にある小菅村(山梨県)での物流の社会実装にむけて取り組んでおられ、『実証実験を始めるので協力をお願いしたい』とドローン・ジャパンを通して依頼をいただきました。そこから各地の物流のお仕事をドローン・ジャパンとして担当させていただいています」

バラバラなキャリアに一貫する「現場と人が好き」

――研究機関系の実験にも参加しています

「はい。地元の藤沢にキャンパスを持つ慶應義塾大学がドローンの利活用を見据えた研究に力を入れていて『慶応義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム』(古谷知之代表=総合政策学部教授)にはドローン仲間が研究所員として参加していた関係で、声をかけていただいております。小田原市では斜面に広がるみかん農園で、収穫したみかんをドローンで運ぶ実験にパイロットとして参加させていただきました。一般財団法人環境優良車普及機構(LEVO、東京都新宿区)の事業を慶應が代表事業者として請け負った実験です。みかん農園ではふだん、作業員が手作業で運んでいます。結構な急斜面での作業で運搬に限らずみかん農園での作業はかなりの重労働が多いので、作業負担を軽くする助けになればいいなと思って参加しました」

――海岸の保安活動での活躍も印象的です

 「2020年に地元の海岸でライフセーバーとドローンによるパトロールを連携させて海岸の安全を守る活動があったのですが、その水難救助デモンストレーションに参加させていただきました。地元ではライフセービングの関係者とつながりがあったので、ドローンで地元の安全に関われたことは感慨深いものがありました。デモンストレーションでは砂浜にドローンの離発着場がセットされたのですが、離発着場は私が作りました。そういえば日本郵便の三重県での実証実験で、集落の個人宅に物件投下で荷物を受け取るための白い枠も依頼を受けて作りました。組み立て解体が比較的簡単にできてドローンも風に影響を受けないという点で、大変、好評をいただきました。建築業のキャリアがこんなところで生かせたような気がしています。電気工事業、建築業、映像のキャリアを無駄にせずどこかに生かせるように、ハードもソフトもおまかせくださいとの思いでやっています」

――「パイロット」の枠を超えた役割を担っています

キャリアのそれぞれはバラバラで一貫していないようですが、一貫していることがあるとしたら、現場に立つことですね。道具を使うことも含めて、現場に立つことが好きなんです。つきつめると、結局は人が好きなんだと思います。実証実験の現場では過疎地に伺って仕事をすることが多いのですが、現地の方とのコミュニケーションは特に大事にしています。扱っているものは最先端技術であっても、私たちがしている仕事は人と人を繋ぐ仕事なので、そこをないがしろにはできないです」

――その考えはドローンを始める前からですか?

「建築業のころからそう考えていました。大手のハウスメーカーのように分業ではないので、最初の設計・打ち合わせの段階からお客さまの生活に入り込んでいきます。さらに注文住宅は、建った後のアフターケアやメンテナンスなどでそこからの付き合いも長くなります。父の会社を辞めて何年にもなりますが、いまも何かあれば私に連絡をしてくださるお客さまもいらっしゃいます。ずっと頼っていただけるのは有難いことです」

――コミュニケーションに関わるエピソードが多そうです

「そういえばこんなことがありました。奥多摩の実証実験には、1年のうちに数か月単位でお邪魔しているのですが、コンビニでいたら話をしたことのなかった地元の方に『ドローンの方ですよね?』と声をかけていただいたんです。覚えていただいているとは思ってもいなかったのでびっくりしましたけれど、とてもうれしかったですしありがたいことです。そういう人と人との関係は大事にしたいです」

お客様を大事にしている方を大事にしたい

――ドローンへの興味につながる体験はありますか

「もともと父親がラジコン飛行機、ヘリコプタ―をやっていて、子供の頃はよく海で一緒に飛ばしていました。空もの全般、機械ものが好きなんですよ。仲間で話をしていると、だいたいのドローン好きってこういうアプローチの方が多いように思います。私も子供のころからずっと飛行機が好き、宇宙が好き、ロボットが好きだったので、自分の好きな物を使って仕事で好きなことをさせていただけるのは大変有難いです。宇宙までは行ってはいませんが、地上150mのところで奮闘中です。それにいつもいいタイミングでいい方に拾い上げていただくことができて、繰り返しますが、ご縁にはとても恵まれていると思います」

――引き受ける仕事の基準とは

「基本的にスケジュールが空いていれば受けます。ただ、この人の仕事ならやりたい、と思う人がいるのも確かです」

――それはどういう人ですか

「一言でいえば価値観の合う方です。向いている方向が一緒の方。お客様を大事にしている方、なんのためにドローンを使うのかを理解している方。例えば、日本郵便は葉書1枚でも山の奥でも届けなければなりません。人材も不足している中、本当に必要だから本気でやっておられます。そういう困っている人を助ける、社会の役に立つ仕事にコミットしている方を大事にしたいですし、仕事も一緒にやりたいです」

――チームで仕事をするときに心がけていることは

「一人一人の役割がはっきりしていること、お互いがお互いを補完しあえること、みんなのモチベーションが上がることです」

――チーム作りで大切にしていることは?

 「本人が好きな話題、得意なことを聞いて引き出しています。自分から垣根を取り払っていくと、たいてい相手も心を開いてくれます。懸念を取り払ってチームの土台を作ることが大切で、相手がどういうポジションなら活躍できるのかを常に考えています。私はチームを作るというより、チームに加わる立場が多いので、出しゃばらないように気を付けています。どうしても年齢的に周りに気を使われるので、そうならないように気遣いはしています。私は自分にカリスマ性があると思っていないので、自分がリーダーになって引っ張るのではなく、リーダーの補佐として全体を調整するポジションでいいと思っています」

ソフトにもハードにも精通するドローンエンジニアリングパイロット

――やりがいを感じる瞬間にどんなことがありますか

「たとえばピンチを救ったときは達成感があります。当然、トラブルはないに越したことはないのですが、何かが起こったときに対処できることはとても重要で、そんなときに何事もなかったようにトラブルを解消し、ピンチを救ったときに喜びを感じます。私たちはいわゆる『転ばぬ先の杖』で、何かあった時に即座に手動に切り替えて安全に下ろすことを最優先にします。実証実験など大きな場でトラブルを回避し、プロジェクトを無事完遂させたときにやりがいを感じます」

――ピンチを救うことこそ頼りがいのあるものはありません

「それが私たち『ドローンエンジニアリングパイロット』なんです。私たちは腕の上手い下手ではなくて、咄嗟の判断が必要な瞬間を含めてどんな時でも自分を冷静に保ち、最善の判断とは何か、リスクが最も少ない方法は何かを常に考えています。ドローンエンジニアリングパイロットは、機体の特性を誰よりも深く理解していますので、いち早く分析し、対応ができ、ハードウェアもソフトウェアも扱います」

今の私たちの仕事はなくなるべき

――ドローンが日常に溶け込むために取り組むべきこととは

 「ドローンというデバイスが本来目指すところは、誰が飛ばしても同じように飛ぶことです。センサーをたくさん積んだ機械が空を飛ぶ以上は、人の技量に頼らずに飛ぶようにならないといけない。機体の信頼性が高くなり、トラブルがなくなることが一番です。トラブルがなければピンチを救う機会もなくなります。だから、最終的には今の私たちの仕事はなくなるべきだと思っています。あるとすれば、最初の開発中の補助、そのニッチなところをやっているだけだと思っています。スイッチを押すと自動で飛ぶ。トラブルが起こっても機体が自分で解決する。誰が使っても同じように飛ぶ。それが大事です。まだ地面から離れて空中に浮くこと自体が大変なことなのですが、それが当たり前にならないといけないと思います」

――最後にドローンの仕事を探している方にメッセージを

「仕事にするうえで『ドローンが好き』は大切なことですが、残念ながらそれだけで仕事につながることは難しいかもしれません。ですので、そのドローンで何がしたいのか、を突き詰めて考えて頂きたいと思います。どう飛ばしたいのか、飛ばして何に貢献するのか、誰のためになるのか。そんなことも含めて、ドローンを飛ばす産業にも興味を持てればいいと思います。興味と好奇心こそが学ぶモチベーションになりますので、現時点で知らなくても興味を持てればいいと思います。私は基本的に人が好きなんです。人のためになるなら一生懸命やろうと思えるので、ある程度どこにでも行けるんですね。呼んでいただいたからには全力で自分の力を出して価値を提供したいと思っています」

――ありがとうございました。

<インタビュー/村山繁>

前場 洋人(まえば ひろと)

プラントメンテナンスと映像制作の経験を活かし、空撮をきっかけにドローンに携わる。
ドローン・ジャパン専属パイロットとして日本郵便をはじめとするドローン物流を牽引する大手企業の実証実験の現場を担当するなど多忙な日々を送る。2023年2月14日、一等無人航空機操縦士技能証明を初交付日に取得。現場を愛し、人を愛し、だれよりも機体のことを理解するドローン・エンジニアリング・パイロットとして多方面で活躍中。無類の飛行機好き。