第15回 津田真弓さん ブルーイノベーション株式会社/講師/パイロット

ドローンは、思っていたより幅広くておもしろい

キャビンアテンダントからドローンのオペレーターに

―― 自己紹介をお願いします

ブルーイノベーション株式会社でドローンパイロットをしている津田真弓(つだ・まゆみ)です。2018年に入社しました。前職では小型機のフライトアテンダントをしていたのですが、その会社の事業撤退を機に転職することになって、ブルーイノベーションに入社しました。空の仕事の知見を生かせる仕事を探す中で、ドローンに注目したのが転職のきっかけです。ドローンが話題になりはじめた頃で、新しい産業の展望を感じ、女性の活躍の場があると見込んで入りました。趣味でアマチュア無線の資格も持っていたので、ドローンにはこの資格も活かせるのではないかとも思いました。

―― アマチュア無線の資格をお持ちなのですね

父親がアマチュア無線をしていて、その影響だと思います。小学生のころ、友達家族三家族くらいが集まってキャンプに行ったのですが、父親たちが無線でやりとりをしていて、それがかっこよかったんです。それで中学か高校の時に第四級アマチュア無線技士を取りました。試験会場には大人の男性ばかりで、女性で子供の受験生は当時では珍しかったかもしれません。現在のドローンの環境と似ている気もします。いまは講師としてお教えすることが多いのですが、受講生はほとんどが男性です。

―― 担当のお仕事は

いまお話した講師や、講師をまとめる現場監督など教育系が多いです。ドローンそのもののほかに、ドローンを使った画像解析の講師や、実験、社内の求めに応じて飛ばすオペレーターなどの仕事もあります。イベントや講習会では、クライアントとの事前調整も担当しています。最近は、パイロットと名乗ってはいますが、純粋にドローンを触っている時間だけではない状態ですね。

―― お客さまは受講生や受託先ですか

ブルーイノベーションは原則として法人の取引先に向けた講習をしていますので、受講生は社員、職員の方です。イベントに出展したさいには会場に来場されたお子さんに教えることもあります。

―― 講師として飛ばすとき、実証実験などでパイロットとして飛ばすとき、お客さまに共通点などはありますか?

私が教える受講生は初心者で知識ゼロの方が大半です。ドローンに関わる法律があることをご存じない方もいらっしゃいます。こんなこともできる、あんなこともできると思って受講してみたら、法律の壁に阻まれる・・・という方もいらっしゃいます。

―― 受講生ご自身のドローンに対する愛着などはありますか

個人的な趣味でドローンが好きで受けに来られたというよりは、どのようにドローンを業務で活用するか、仕事の一環として受講される方が多いです。だから皆さん、とても真剣に受講されている印象です。

―― ドローンに興味がある方と仕事として来られた方に違いはありますか?

仕事として来られた方の中でも、もともと本人もドローンに興味がある方は楽しんで受講されていますし、仕事として来られている方も、真剣に、使命感を持って学ばれている印象です。

初心者には緊張をほぐすように、慣れてきた方には厳しく

―― 講師として受講生に接しているときに、何か心がけていること、工夫していることはありますか?

一人ひとり受講の動機や技量が違うので、その方に合わせることを心がけています。例えば、初めてで緊張してガチガチになっている方には、安心して操作していただけるよう緊張をほぐすように接しています。反対に、操作に慣れてきた方が安全をおろそかにしそうなら厳しめに接します。中には、練習中にドローンを理想通りに操縦できず、もうやりたくないと思ってしまう方もいらっしゃるので、そんなときにはあなただけではないし、訓練することでできるようになりますよと、安心して講習を続けていただけるよう不安を取り除くことも心がけています。

―― よくあることは、他にどんなことがありますか

基本的には、初心者の方向けに安全な広い場所で訓練しますし、講師がついているので滅多に事故はおきませんが、機体を木などの障害物にぶつけてしまうケースがあります。ほかには機体の不具合、プロペラがうまくついていないなどですね。私もたいていのトラブルは経験してきているので、直し方も
わかりますし、対応もできます。初めて操作される受講生の方には、ぶつけてしまったショックと、機体を壊してしまったかもしれないショックとで、必要以上に萎縮される方もいらっしゃるので「直し方はわかるので大丈夫ですよ。次からは気を付けていきましょう」と、怖がらないように、安心を与えるようにしています。最近の機体より、古い機体の方が操作に技量を要するので講習ではそちらを使っています。着陸が上手くいかないとか、方向がわからなくなる方もいるので、落ち着いて操作していただけるよう心がけています。

―― 受講生が学ぶために、技術だけでなくメンタルを教えているのですか

そうなのかもしれないです。テクニカルのことよりは、皆さん、本当に初めての方ばかりなので、安心して操縦していただける環境を作っています。私が女性ということで安心していただいている部分もあると思います。以前、女性の受講者に、ドローンに興味もないしズル休みしたいくらい嫌だったけど、来てみたら先生が女性で優しくてよかったと言ってもらったことがあります。性別を問わず、安心して受講いただける雰囲気づくりを心掛けています。

コツをつかんだ瞬間に「それです!」

―― 限られた日程の中で一定のレベルまで技術の引き上げも必要ですがその方法は

誰でもコツをつかんだ瞬間が見えるときがあります。その瞬間にその感覚をお伝えします。そうすると、ほとんどの方にわかっていただけます。私は、誰でも想像、理解できるようなイメージを伝えています。例えばATTIの操作説明は、常にバランスを取り続けなければならないので、子供の頃に手の上に箒や傘を乗せてバランスを取ることってやったことがあると思いますが、あれをスティックでやるイメージです、という風にです。奥行きはクレーンゲームにたとえます。初心者には奥行きをつかむ感覚が難しいので、クレーンゲームと同じ感覚ですよと。受講生が体感を通してコツをつかんだ瞬間に「それです!」とお伝えします。実際の自分の感覚と実態が違うので、そこは講師として難しいところです。補助者や運航管理者の必要性も体感を通して理解してもらうようにしています。体験してはじめて身につくことが多いので、そこは常に意識しています。

―― 講師としてやりがいを感じる時や嬉しいことは

受講生の皆さんが、コツをつかんでどんどん上手になるとやりがいを感じますし、良かったなと思います。授業で教えたことが実際に現場で役に立ったと報告していただけたときは本当に嬉しいです。また「ブルーイノベーションに依頼してよかった」と言われる方が嬉しいです。個で目立つより会社の一員でいたいと思っていますので。ドローンの仕事は一人でやれる仕事ではなく、事務スタッフがいて、交渉してくれるスタッフがいて、チームでやっていることですので、会社が褒められると、関わっているスタッフ全員が褒められたことになるので、私はその方が嬉しいです。

―― 会社員として請け負っているいろいろな仕事の中で、嬉しいことはありましたか

自治体向けの講習会で「来年もお願いします」とおっしゃっていただけることがあります。そんなときはチームとして私を含め関わったスタッフ全員が評価いただけたとことだとおもえてとても嬉しいです。

クライアントが不安を抱かないために

―― オペレーターとして気を付けていることは?

一番は安全。それにクライアントに不安感を与えないこと。まとめると安全と安心、ということになるのかもしれません。

―― 不安感を与えない工夫とは

まず、自分自身の不安を見せない。機体が動かなかったり、通信が途絶えたりなど、トラブルが起こることはありますが、すべきことはそれに対応することなので、不安を見せることではありません。クライアントはこちらが不安がっていると不安が大きくなるものです。ですので、それを見せないようにします。そして理由を説明します。機体の調子が悪い場合に、なぜそうなっているのかを説明することで不安を減らせます。いずれのときにも常に冷静でいることは大切です。焦りが表に出ないようにするためにも、日々の練習や経験が大切だと感じています。

―― 普段使っている機体は

機体を扱うのは主に講習のときです。講習ではPhantom、Mavic(DJI社/中国)など空撮の機体が多いです。最近はSkydioシリーズ(Skydio社/米国)が増えてきています。後は、ANAFI(Parrot社/フランス)も使った例があります。このほかイベントではトイドローンを使います。会社が新しい機体を導入するとそれを使うことが楽しみになります。いまはEVO(AUTEL ROBOTICS社/中国)を使ってみたいです。個人的には、業務で使うことがほとんどないFPVの機体も使ってみたいですね。

―― 親しみのある機体は

センサーがついていないトイドローンや昔のPhantomです。うまく操作できるかは別の話ですが、性能がいまほど進化していない昔の機体はじゃじゃ馬っぽくて、かわいくて、操作しがいがあって好きです。最新の高性能のドローンは機能がすごすぎて「先生っ」という感じです。かつての機体は不具合が起こっても原因がわかって人間味を感じます。

興味を持てば勉強が苦にならない

―― オペレーターの仕事は転職前のイメージ通りですか

思っていたよりも幅広いですしおもしろいです。ドローンを飛ばすことが仕事であるとばかり思っていましたが、そのほかにも講習会で教えたり、ドローンを使って別の業界のお仕事ができたり。人手不足や安全確保でお困りの会社、業界は多いと伺っていますので、ドローンで解決できることがあればそこでお役に立ちたいです。林業に関わることがあるのですが、接点のなかった業界にかかわることも想像していませんでした。

―― 林業向けの仕事とは

林業従事者の方に測量の方法、3Dモデルを作り方、画像解析の方法などをお教えしています。森林は斜面であることが多く、平らなところで飛ばすこととは別の技術が必要なので、ちょっと特殊ではありますが、自動飛行などの林業で使える技術も教えています。

―― ドローンで上達したい方へのアドバイスは

現場での学びに敵うものはありません。現場にどんどん出るべきです。幅広く興味を持って、どんな業務でもやってみる。どの機体を使うときも怯まずに使ってみる。それと勉強が好きだといいですね。機体も業界も法律も、どんどん新しくなるし、知らないことがいっぱい出てきます。学ぶことが止まりません。私は、未知のものに興味を持って、知らないことを学ぶ作業が好きです。ドローンは資格を取ったあとに未知のことと出合います。大事なことは勉強しアップデートを続けることと、それが苦にならないこと、でしょうか。

―― 未知に興味を持つ工夫とは

未知のものはだれであっても最初の知識はゼロです。ですが学んでゼロが1になると、1が次の興味を生みさえずれば自己増殖します。まず1にすれば、それが次の興味をもたらしてくれると思います。ドローンについては、海外では戦争で使われて恐ろしいものというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、日本ではこれから社会実装され生活に利便性をもたらすものになると信じています。せっかくなのでいまのうちにゼロから1に踏み出して受け入れてみることもよいのではと思います。

―― ありがとうございました。

<インタビュー/村山繁>

津田 真弓(つだ まゆみ)
航空関係の仕事(小型機のアテンダント)の経験から、当時はまだ目新しいドローンの業界に興味を持ち2018年ブルーイノベーション(株)に入社。同会社のエースパイロットとして、また講師として、講習会やイベント会場などに赴き、日本中を飛び回る多忙な日々を送る。
「1つのプロジェクトを完遂するためには組織としてのチームワークがなによりも大切。チームの一員として褒められることが何よりもうれしい」と語る彼女の夢は、未開の業界、海外案件など、とどまるところを知らない。